Plan...

□ないん!
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 俺が担任を務める1年A組。
ここでは今学校始まって以来、初の試みが行われている。


全学年の赤点常連者に対して放課後、補習が行われているのだ。

比較的問題児の多いこの学校で補習ということ自体が珍しい。
今までは補習をやったところで無駄だと認識されていたからである。
そんな訳で、



「シャンクス、これやんなきゃダメなのか?」

「お前なぁ、1学期の中間も期末テストもほとんど0点だったんだぞ!?
今回こそせめてオール30点は取らないと留年決定だぞ、け・っ・て・い!!!」

「ッハ、だせぇな」

「キッド、お前もだぞ」

「なんで俺まで・・・・・・」

「たまには身体じゃなくて脳みそ動かせってことだな。
ほらよ、お前は数学からだ、ゾロ」


「あ゛あ゛ぁ!!!!もうわかんねぇ!!」

「毎回毎回、授業居眠りしてりゃあ当然だろうが。
まあ、今までのツケだと思って頑張るんだな」

「ぐおー」

「クザン先生!寝るなら職員室へ!!」


教室はこれでもかというほどてんやわんやだった。
荒れているわけではないが、流石に留年はどいつも嫌らしい。
生徒一人一人に教師か比較的頭が良い生徒が付きっきりで勉強の面倒を見ているが、文句は言えど渋々ながら真面目に補習をしている。
まあ、嫌いな勉強をする年数を増やすのはごめん、と言ったところだろう。

「まず、どっからわかんねぇんだ?」

「おう!全部わかんねぇ!!」

「だろーな」

能天気に歯をむき出して笑うルフィの頬を苛立ちを紛らわすかのように引っ張った。
その横ではベックがゾロにまず算数のプリントをやらせている。ルフィもまずは算数からだな・・・。

絶対的に教師の数が足りないし、本人達も先生より親しい友人の方が話を聞くだろうと思い、キラーにはキッドの面倒を頼んだ。
キラーは頭も良いし面倒見も良い。最早うちのクラスのおかん的存在で、俺はベックの次に頼りにしている。


別の机ではスモーカーがエースを、鼾を掻いて寝る青雉の横でドレークが叫んでいる。
つか、何しに来たんだ、こいつ。

そして、少し離れた所では、


「・・・・おい、お前の頭は何で出来てるんだ」

「ぷるんぷるんの脳みそです」

「そうか、寒天か」

「脳みそだってば!」

2年生が1年生に数学を教えられていた。


「なんでローくんがわかるの、これ」

「この程度の方程式、教科書見れば普通の人間ならできる」

「それはあたしが普通じゃないって言いたいわけ?」

「安心した。国語の理解能力はあるらしいな」

「むきいいぃぃッ!!!!」

数学の補習用プリントを下敷きにして項垂れる2年生と教科書片手に余裕を浮かべた笑みで見下ろす1年生。
いや、見下すと言った方がただしいだろうか。
なんにせよ、楽しそうだなぁ、トラガルファーの奴・・・。

あんなに生き生きとしたアイツを見たのは担任を請け負って初めてかもしれない。


「やるのか、やらないのか、どっちだ?」

「ムカつくけどやるー!!」

椅子に座りながら地団駄を踏む相手をクツクツ笑いながら再び指導を始めると、眉間には皺を寄せたままだが大人しくそれに耳を傾ける。
その様子だけを見ていれば、傍からは普通の恋人にしか見えない。
が、本人達にその意識はない。

あいつはトラガルファー=頼みの綱、トラガルファーにとってはアイツ=玩具、程度にしかお互いを思って見ていないだろう。
でなければ俺もほいほいとくっ付けたりしない。


「ローくん疲れたぁ・・・」

「冗談だろ、1時間でまだ2ページしか進んでねぇ。
奇跡の脳みそだな。解剖して中を見てみたいもんだ」

「ローくんってば、マルコ先輩に負けず劣らずのSなのですね・・・」

「惚れるなよ」

「惚るかよい」

「うぜえ」

マルコの口真似を一言で一蹴し、机に項垂れる頭に向かってワーク集を投げつける。
トラガルファーは机にへばり付くソレを先輩だとは微塵にも思っていないようだ。

「良い点取って不死鳥屋を驚かせるなんていう下らないことに付き合ってやってんだ。
真面目にやんねぇと捨てるぞ」

「やーだー!ローくんまで見捨てないでええぇぇぇ・・・!!」

突っ伏したまま涙を滝のように机へ流し、トラガルファーの腕をガシッ!と掴む様はさながらホラー映画のようだ。
しかし、トラガルファーは楽しそうにニヤニヤ笑って見下ろすだけ。
めちゃくちゃ楽しんでやがる、アイツ。

「ううぅ・・・ローくんがいないと『テストで良い点取ってマルコ先輩をぎゃふんと言わせちゃえ!作戦!!』がああぁぁぁ・・・・・!!」

「その安直なネーミングセンスからしてお前の脳みそはすこぶる残念だな」

「この作戦を提案したのはシャンクス先生だもん!シャンクス先生に文句言ってよ!!」

「俺を巻き添えにするな!」

このやろ、人が親切に人肌脱いでやってるっつーのに・・・。


「うぅっ・・・・マルコ先輩が足りない・・!!」

「そういえば、最近学校が静かだったな」

「テスト勉強の邪魔したら、もう突っ込んでくれないって言われた・・・」

突っ込みだけかよ。
普段、平気で顔面に足の裏めり込ませてる癖に中途半端に甘いんだな。

「それに、」

机に押し付けていた顔をこてん、と横に向け、どこでもなく視線を床の方へと投げる。
そして、ぽつりと小さく漏らした。


「マルコ先輩が言ってたことは、正しいから」



トラガルファーは、何のことだかわからないようだが何も言うことはなかった。
俺は知っていた。何しろ、俺が本人から事情を聞いてこの勉強会を開催することに決めたのだから。



『いつまでも、俺達を頼るなって』


あの時も、こうやってぽつりと漏らした言葉。
こいつは変態の癖に馬鹿正直だから、本当に馬鹿正直にその言葉をそのまま受け取ったんだろう。

案外、あいつも分かりやすいと思うんだがなぁ。


後ろ首をガリガリ掻きながら、チラリと教室のドアへと目を向けた。



・・・・気付いてないのはこの馬鹿だけか。
やれやれ、青春をサポートするのも辛いもんだ。





作戦開始からの日課。


((勉強より、何より、先輩を我慢するのがこんなに辛いと思わなかった))

((・・・なんで毎日こっそりアイツの様子を見に来てるんだい)
((これじゃあ、俺の方が変態みたいじゃねぇかよい))

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