この想いを消して

□茅野カエデ
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━━━いいなぁ…夢があって…。


「その夢、叶ったらいいね」

「!…うん!ありがとう!」


茅野は応援してくれることに
すごく喜んだ。

前のクラスでこの夢を話した時は
そんなもの無理だと笑われてしまった。

くだらない夢だといえば
そうなのかもしれない。

けれど茅野にとっては
大事な夢だ。

笑わないで"叶ったらいいね"と
言ってくれたことにきっと
○○名無しという人間は
とても優しい人なのだろうと思った。


「○○さんって昨日は
ずっと貼り付けたような笑顔してたから
怖い人なのかなって思ってた。
…でも私の勘違いだったね。
名無しちゃんはすっごく優しい人!」

「優しくなんかないよ私は。
ただの人殺しだから」



自嘲気味に笑う彼女は
なんだか儚くみえた。

"ただの人殺し"

本当にそうだろうか。

名無しは
人を殺して平気でいられるような
そんな人には見えない。

まだあったばかりだが
彼女の顔をみれば分かる。

わざとクラスの人と距離を置こうと
していることも。

何か理由があるんじゃないのか。

人殺しなんて
本当はやりたくないんじゃないのか。


茅野は名無しに聞きたかったが
彼女が自らの口で
話そうとしてくれるときまで
待つことにした。

まずは信じてもらうこと。

E組はいい人たちばかりだということを
知ってもらいたいと思った。


「名無しちゃんは優しい人だよ!」


茅野は強くもう一度同じ言葉を繰り返した。

これは間違っていない。

人の夢を笑わないで聞いてくれる人が
優しくないなんて思えない。


「…なんでそう思うの?」

「うーん勘かな?」


はぐらかすように笑うと
名無しも笑った。

今度の名無しの笑顔は
貼り付けたようなものでも
自嘲気味のものでもない。

とても暖かみのある
優しい笑顔。

茅野はそれをみて
綺麗だと思った。

そして改めて
名無しは優しい人だと思えた。
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