この想いを消して

□気持ち
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一騒動を終え旅館に戻る。

結局、防衛省に頼まれたスナイパーは
殺せんせーを殺せなかったらしい。

まあそんな簡単に殺せたら
ここまで苦労はしない。


それにしても、殴られたところが
まだズキズキする。

名無しは
もっと不良たちを殴っておけばよかったと
今更ながらに後悔した。


「はあ…。疲れたし何か飲み物でも買って
部屋に戻ろう…」


自販機にお金を入れ
何を飲もうか思案していると
横から伸びた手が勝手にボタンを押す。

出てきたのはレモン煮オレという
何とも甘ったるそうな飲み物。


「カルマくん、
何勝手にボタン押してんの…」

「悩んでたから選んであげたんだよ」


取り出し口からレモン煮オレを
取り出すと笑顔で名無しに渡す。

甘い飲み物が嫌いではないが
風呂上がりなのだからもっとサッパリした
飲み物が飲みたかった。

そんな名無しの思いを知ってか知らずか
カルマも同じ飲み物を買う。


「頭、まだ痛むんでしょ?
それで冷やせば
少しは楽になるんじゃない?」


カルマがそれといって指したのは
手渡した飲み物。

相変わらず言い方に棘があるが
少しは心配してくれているのだろうか。


━━━ホント、カルマくんは不器用だなぁ…


もっと普通に心配できないのだろうか。

けれど思い返してみれば
不良たちを負かしたあとに
真っ先に自分に駆け寄ってきてくれたのは
カルマだった。

あのときのカルマは
いつもの余裕そうな雰囲気がなくなり
本当に心配しているような顔だった。

名無しに誰に殴られたかを聞いたのも
そのあとに仕返しをするためだろう。

きっと恐ろしいくらいの
仕返しをしてくれたはずだ。


「ありがとう、カルマくん」


ニコッと笑った名無しの表情は
本当に嬉しそうだった。

カルマはその笑顔が自分だけに
向けられている事に赤面した。

名無しのこんな満面な笑顔を
見たことがない。

それはとてもレアだといえる。


「カルマくんも
まだ殴られたところ痛むんでしょ?
それで冷やしたら?」


名無しが指したのは
カルマが自分へ買った飲み物。

先ほどのカルマと同じように言う。

"じゃあまた明日"といって
さっさと女部屋へ戻っていく
名無しの後ろ姿を
カルマはボーッと見つめていた。


「……かーわいー」


思わず出た言葉にハッとした。

名無しに対して好意が
ないわけではない。

ぶっきらぼうだけれど優しいし
周りをよく見ている。

いつも無表情のくせに
ふとした瞬間に笑うもんだから
目が離せなくなる。

人のことばかり考えて
自分を大事にしようとしない危うさを
見守っていなくてはならない気分になる。


「…まじかよ…」


今まで見ないように
考えないようにしてきたが
どうやらここらで潮時のようだ。


━━━…俺、名無しちゃんのこと
好きだったんだなぁ


いざ自分の気持ちを認めてしまうと
さっきまで何気なく話していたことが
急に恥ずかしくなる。

名無しがみせた笑顔が
頭から離れていかない。

カルマは誰もいないフロアで
小さく溜息をついた。

この気持ちを
どうしたらいいのだろう━━━……

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