この想いを消して

□班
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「渚ー。班の人数そろった?」


登校して早々に
学級委員の片岡メグが渚に話しかけた。


「決まったら私か磯貝くんに伝えてね」


班とはなんの班なのだろう?

行事予定表はもらったが
あまりしっかり見ていなかった。

名無しが思考を巡らせていると
茅野が名無しに近づき
京都の雑誌を掲げながら嬉しそうに
声をかけた。


「名無しちゃん、もし班が
決まっていないんならウチの班に
入らない?」

「さっきから班って言ってるけど
なんの班なの?」

「来週の修学旅行のよ!」


修学旅行…。

たしかに中学生はこの時期あたりに
修学旅行が入っていた。

京都へ行くようだ。

名無しは誰かと旅行を
したことがなかったため
少しばかり楽しみに思った。


「うん、いいよー。班員は他に
誰がいるの?」

「渚と杉野くんとカルマくんと奥田さん!」


今のところ6人。

あまり話したことがない人たちだったら
どうしようかと思ったが
渚やカルマという知り合いがいて
ほっとした。


「大丈夫かよカルマ。旅先でケンカ売って
問題になったりしないよな?」

「へーきへーき」


杉野が心配そうな顔でカルマに問う。

暴力沙汰が多いカルマが
面倒を起こさないか心配なのだ。

カルマが"へーき"と言って
取り出したのは一枚の写真。


「旅先のケンカはちゃんと目撃者の
口も封じるし表沙汰にはならないよ」

「おい…!やっぱやめようぜ
あいつ誘うの!」

「うーん…でもまあ気心知れてるし」


その写真はカルマと
ボコボコにされた不良っぽい人と
女子生徒が写っていた。

不良の人と女子生徒は身分証を持ち
げっそりとした顔で写真に写っている。

対するカルマは満面の笑み。

カルマからは悪魔のような尻尾と
角が見えた気がした。

杉野はその写真を見て渚に
誘うのをやめようというが
気心が知れてる友人だからと理由で却下。

名無しもその写真を見て
肝を冷やした。

なるべくなら問題を起こさないでほしい。

そして巻き込まないでほしい。

めんどくさい。


「女子あと一人足りないんじゃね?」


カルマの言葉に杉野は待ってましたと
言わんばかりに自慢気に鼻をこする。


「俺をナメんなよー?この時のために
だいぶ前から誘っていたのだ」


杉野が嬉しそうな顔で手招きされて
呼ばれたのはクラスのマドンナ神崎有希子。

真面目でおしとやかで
おまけに美人。

目立たないがクラスみんなに人気がある。

彼女と同じ班で嫌な人なんていないだろう。


「よろしくね、名無しちゃん」

「よろしく、神崎さん」


ニコッと笑った神崎の顔は
まるで女神のよう。

名無しも神崎の笑顔につられ
こちらも笑顔で返す。

周りの男子たちは
美女二人の微笑ましい会話に
うっとりとした顔をした。


「よっしゃ、決まり‼
どこを回るか決めようぜ」


杉野の喜びの声に賛同し
プロの暗殺者が暗殺しやすいコースを
決めていく。

暗殺教室では
修学旅行でも暗殺だ。

京都の街は広く複雑。

殺せんせーは班ごとに決めたコースに
付き添う予定だ。

スナイパーを配置するには
絶好のロケーション。


どこが一番のベストポイントなのか。

京都の街をよく知っておく必要がある。


「フン。みんなガキねぇ。
世界中を飛び回った私には…
旅行なんて今更だわ」


イリーナ・イェラビッチ。

職業は殺し屋。

美貌に加え
実に10ヶ国語を操る対話能力を持ち
いかなる国のガードの固いターゲットでも
本人や部下を利用して容易に近づき
至近距離からたやすく殺す。

潜入と接近を高度にこなす暗殺者。

彼女が馬鹿にしたように
皆が京都の行く場所について話しているのを
嘲笑う。


「じゃ留守番しててよビッチ先生」

「花壇に水やっといて〜」


生徒たちはイリーナの言動を軽くあしらい、
無視しながら淡々とコースを
選んでいく。

その様子をみて
イリーナは苛立ったように
逆ギレし、銃口を向けた。


「名無し〜!あのクソガキどもが
私を除け者にするのよ⁉酷いと思わない⁉」

「はいはいそうですね〜。イリーナ先生も
一緒に行くとこ決めましょうか」



名無しの発言にパアァァァと
喜びの顔をするイリーナ。

"大好きよ〜!"と言いその豊満な胸を
窒息死させるのかというくらい押し付ける。


彼女と名無しは
殺し屋の世界で以前から面識があった。

まさかこんなところで再会するとは
思っていなかったが元気そうで何よりだ。

イリーナは少々自分の気持ちを素直に
表に出すのが下手なだけで
本当は生徒たちと一緒に修学旅行に
行けることが嬉しいのだ。

可愛らしいと言えば可愛らしいのだが
逆ギレして銃口を向けるのは
やめてもらいたい。


「名無しちゃんにベッタリだよねー
ビッチ先生」


茅野がそういうと確かにそうだな
と今更ながらに思った。

昔の知り合いだからというのもあるだろうが
何より"イリーナ先生"と呼ぶのが
名無しだけだからだろう。

他の生徒にもファーストネームで
呼ばれたいらしいが
ビッチで固定されてしまっているため
その願いは叶わなかった。


だが殺し屋の彼女にここまで失礼な態度を
とっていられるのは彼女自身の性格と
生徒たちの受け入れる心の広さからだ。

普通、殺し屋だと聞けば
誰もが関わらないよう遠ざかる。

それを軽口を叩ける仲になろうとするのは
たやすいことではない。


名無しは改めて
E組の順応力の高さに感心した。





→あとがき
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