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□はば学冬の陣!
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「助けて、ルカ!!」

 頭で考えるより早く、口から出た声は

「馬鹿、呼ぶな!」

 素早い動きで私の口を塞いだ聖司先輩の、手のひらに阻まれて消えた。


「むーーーー!」

「ルカの奴、気付いてないだろうな……」

 聖司先輩が心配そうにつぶやく。


 ルカたちに見えないように防御壁に隠れてうずくまっているから、こっちからもルカたちの姿は見えない。

 だけど、激しい戦闘の気配は変わらず伝わってくる。

「向こうであれだけ騒いでるんだ、聞こえたはずはないよ。」

 あくまでも冷静な玉緒先輩が言う通り、声になる前に消えた叫びがルカに届いたはずはない。




「いいか?大声出すなよ。」

 念を押しながら手を放してくれる聖司先輩の元を慌てて離れる。

 なんかここで叫んだりするのは流れ的にダメな気がするから、私はやむなく助けを期待することを断念した。


 だからって、勝ちを諦めたわけでもないし、旗を渡すつもりもない!

 助けを呼ばない私の様子に、安心していた先輩たちの隙をつくと、


 雪に足をとられそうになりながら全力で旗まで走った。

 そして引き抜いた旗を握り締め、先輩たちに向き直る。




「旗は渡しません!」


 意地になる私を見て、先輩たちはやれやれとでも言いたげな顔を見合わせる。

 確かにこの状況は圧倒的に私の不利。

 柔道部と交戦中の二人が勝利して戻ってこない限り、私と先輩の1対2の構図は変わらない。

 だけど、ここで私が大人しく旗を渡してしまったら、先輩たちがそのまま柔道部に加勢しないとも限らないもの!




「……メモ子さん。いい子だからそれを渡してくれないか?」

 玉緒先輩の柔らかな声音。優しげな微笑み。眼鏡の奥の瞳が、いつもより少し鋭さを増しているけど。




「メモ子。大人しく俺の言うことを聞けば、褒美に甘いものを奢ってやるぞ?」

 聖司先輩の魅惑的な言葉。優美な微笑み。獲物を追い詰めたみたいに妖しく輝く瞳で見下されて。




「ぜっ、たいに!渡しません!」

 負けるもんかぁ!!

 後ろ手に旗を握り、取られてしまわない様に身体ごと雪の壁に押し付ける。

 渾身の気合を込めた瞳で先輩たちに対峙すると、先輩たちが今度こそ呆れたように肩をすくめた。




「仕方ないな……。」

「メモ子は頑固だからな……。」

「っ!諦めてもらえますか!?」


 勝利の予感にほっと息を吐きかけたその時。




「よっ……と」

「きゃぁっ!?」

 ひょい、と玉緒先輩に抱え上げられた。

「仕方ない。メモ子さんごと連れて行くか。」

「おい紺野、あんまり触るな!」

「無茶言うなよ、設楽。」

「お、下ろしてください!」

「ああメモ子さん、あまり暴れないでくれないかな。頭から思いっきり落としそうだ。」


 それは困る!……って言っても、このまま大人しく連れて行かれるわけにも……






 ……助けて、ルカ!


 焦りとか、悔しさとか、情けなさとか、抱き上げられてる恥ずかしさとか。

 とにかくもう一杯一杯で。

 気が付けば、心が勝手にルカに助けを求めてた。


 こんなの遊びで、ただの雪合戦で、別に危害を加えられるわけでもないのに。

 声に出すのは卑怯な気がして、心の中で必死にルカを呼んでた。

 こんなの、聞こえるわけもないのに









「……うっ…わ!?」

「な……っ、!?」

 突然。

 先輩達の悲鳴と共に、すごい音がして。

 目の前で雪の防御壁が崩れた。





「ヒーロー参上♪」




「ルカ……?」

 分厚い雪壁を蹴破ってルカが出てきた驚きとか、助けが来てくれた嬉しさとか、


 崩れた雪壁が私ごと先輩を埋めてる事とか

 ……そんなことより。




 なんで、私が呼んだのが分かったんだろう。

 私の不思議そうな瞳に映ったルカが、この上なく満足そうに微笑んだ。






「助けに来たよ。お姫様」















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