「ニーナ、一緒に行こう?」
ニーナの顔を見上げるようにして、そうお願いしてみた。
やっぱりニーナ一人で敵陣に突撃とか、危険な気がする。
……とか言ったら、拗ねるだろうから言わないけど。
「……そんなにオレが心配?」
「う」
見透かされてしまった。
「まあいいけどー。相手が手ごわいってのはオレも認めます。……でも」
「でも?」
よかった。ニーナ拗ねてないみたい。
言葉の続きを促すと、ニーナが少し屈んで私の顔の高さに目線を合わせた。
「アンタのことは、オレに守らせてね。」
「……雪玉くらい、当たっても平気だよ?」
「メモ子ちゃんが平気でも、オレが平気じゃねーの。そーいうわけだから、大人しくオレに守られて?」
ほんの少しだけ寄せられた眉。
ここは素直にうなづいておいた方がいいみたい。
「うん、よろしくお願いします。」
「うんうん、任せとけー。」
満足そうに私の頭をなでるニーナ。
「あ、子ども扱いした。」
「たまにはいいんじゃね?」
むぅ。
たかが雪玉と侮ることなかれ。
「わぷっ!」
「ニーナ!」
ルカの放つ雪玉は、確実にニーナの顔面狙い。
冷えた肌にクリーンヒットして砕ける雪玉。……地味に痛そうだ。
「だいじょぶ、なんともない!今のうちにちょっとでも前進んどかないと……」
「そうだね。」
ちらりと後ろを振り返ると、コウと嵐さんの一騎打ちが始まっていた。
至近距離で飛び交う雪玉。素早い動きでかわし続ける嵐さんと、ぶつかる雪玉をものともしないコウ。
……不利は目に見えてる。
嵐さんがコウを引き付けてくれてるうちに陣に近づかないと、挟み撃ちになっちゃうもんな。
「……っ、」
ニーナにまた雪玉が当たった。
ニーナの運動神経なら、もっと早く敵陣に突っ込むことも、よけながら進むこともできるはず。
だけど、私をかばいながら進むニーナはいいように的になってしまって。
「ニーナ、私のことはいいから……」
「それはこっちのセリフ!オレのことはいいから、ちゃんと後ろにいてくれよ!」
「でも……」
足手まといにしかならない私は、もどかしさに唇をかむ。
このままじゃ。
「二手に別れよう!このままじゃ狙い撃ちだよ!」
「だから気にすんなって……ちょ、メモ子ちゃん!?」
最初からニーナの返事を待つつもりはなかった。
一方的に言葉を終え、私はニーナから離れて走り出す。
厚く積もった雪の上は走りにくくて何度も足を取られそうになるけど、必死に体勢を立て直して走る。
私に雪玉が飛んでこないってことは、ルカの狙いは変わらずニーナだ。
私が少しでも早く陣に着かなきゃ、ニーナも嵐さんもやられ損になっちゃう!
「、わ!」
いきなり足元に雪玉が飛んできて、反射的にブレーキをかけた身体がつんのめる。
「メモ子、転ばないように気を付けて。」
玉を投げたルカくんの優しい言葉。……と、裏腹の飛んでくる雪玉の正確無比なコントロール。
「わわ、……っ」
ちょうど私の進路をふさぐように、足元への集中砲火。
無理に進もうとしなければ当たりはしないけど、これじゃ進めない。
「ちょ、ルカさん!?女の子狙うとか、ぶっ」
「男も女もない。戦場では誰もが戦士なのだ!」
見かねて文句を言ったニーナの顔に、鋭い放物線で飛んできた雪玉がぶつかった。
確かに真剣に思いっきり遊ぶのが信条だけど、あれに比べれば手加減はしてくれてるんだろう。
よし!
覚悟を決めた私は、前進するスピードを速めた。
ブーツの足に少しぐらい当たったって、ニーナのダメージの比じゃないもん!
「いい度胸だ。さすがメモ子。」
楽しそうな声音。ルカくんが浮かべてるだろう楽しげな微笑が目に浮かぶ。
「メモ子ちゃん、無理すんな……ぎゃ!」
「ニーナ!?」
今までとは違う鈍い音と悲鳴にニーナを振り返ると、前のめりにゆっくりと倒れるニーナが見えた。
ニーナの後頭部に当たっても尚、崩れることなく地面を転がる雪玉。
……凶器。
「そう簡単に行かせるかよ!」
「コウ!……嵐さん!?」
その凶器を投げたのは、後ろからこっちに向かってくるコウだった。
コウと戦ってた嵐さんの姿を探すと、嵐さんも少し間を置いてこっちに向かってる。
勝負に徹するなら、私のとるべき行動はひとつ。
コウに追いつかれる前に、単騎で敵陣を突破し、旗を奪取すること。
でも、あの凶器をモロに受けたニーナがまだ起き上がってこない。
どうしよう……!?
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