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□はば学冬の陣!
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「ニーナ!」


 逡巡の後、私は倒れたニーナに向かって駆け出す。







「……残念だ、メモ子。戦士としての誇りを忘れたか!」


「って言うか、コウの投げてる氷玉がまずルール違反だからね!」


「俺は普通に握っただけだ。」


「パワー超人め……っ!」


「メモ子!新名!」









 足元にルカの雪玉がかすめる。 


 余計なことをしゃべりながら走っていたせいで、反応が一瞬遅れて身体が揺れた。


 視界に、倒れてゆく周りの景色と、矢継ぎ早にルカが放ったたくさんの雪玉が、やけにゆっくり映った。





    当たる。







 





 覚悟を決めてぎゅっと目を閉じた時、不意に目の前に影が落ちた。


 力強い手が私の腕をつかんで、倒れかけた身体を引き上げる。


 そしてそのまま、すっぽりと包むように抱きすくめられた。


 かすかな衝撃と共に、雪玉がはじけて飛び散る。





「……っ、間一髪。」


「ニーナ……?」


 目の前にあるニーナの顔に、思わず目を瞬く。


「……もしかして、状況わかってない?」


「え、」


「まだ攻撃止んでないって!ほらこっち!」


 きょとんとしていると、あわてたニーナの声とともに、雪で作った壁の影に引きずり込まれた。









「ふぅ……。嵐さん大丈夫かな。」


 一息ついたニーナが、雪壁から身を乗り出して様子をうかがう。


 身体は離れたけど、私をつかんだニーナの手はそのまま。


「っ、ニーナは大丈夫?」


「ん、だいじょーぶ。かなり痛いけど。それよりメモ子ちゃんは?」


 なぜだかうまく言葉が出てこないのを、無理に絞り出して尋ねると、ニーナが向こう向いたままうなづいて。


 そのことにホッとするのと同時に少し不満を覚えたりして。


 なんでだろうって首をかしげながらニーナを見ると、ニーナがくるりと振り返った。


「え、なに??」


 目が合って、そしたらなんだかドキドキして。


 動揺してわずかに身を引いてから、ああ今避けたのニーナが気にするかもって思ったけど、


「雪玉、当たってない?」


 ホントに心配そうに確認してくるニーナの表情に、なんだか逆にホッとした。





「うん。大丈夫。」


「そか。」


 ニーナが安心したってにっこり笑う。それはとても嬉しそうな笑顔で。


 自分はいっぱい雪玉が当たって、ほっぺも鼻も赤くなってるのに。


「……なに情けない顔してんの。」


「ひゃっ」


 ごめんねってじわじわこみ上げる気持ちを、そんなこと言ったらニーナを傷つける気がして。


 なにも言えずにただニーナを見上げてたら、冷たい指先でおでこをつつかれて思わず声を上げた。





「ハハッ、すっげぇ声。ホント、手ぇかかるよなー。アンタ。」


 よしよしって私の頭をなでるニーナに、子ども扱いがちょっと悔しいなって眉を下げる私。


「うっ……そんなに頼りない?」


「そりゃあもう?」


「……ごめんなさい。」




 すごく近くで視線がぶつかってニーナが困った顔で笑うから、思わず視線をそらしてうつむいた。


 ニーナの小さなため息が前髪をくすぐって、ぎゅうと胸が苦しくなる。


 呆れられたのかもって、そう思って次の言葉が出てこないでいる私のおでこに




 こつん、とほんのわずかな衝撃と共に、熱が触れた。


「……ウソ。」


「ニーナ…?」

 咄嗟に顔を上げようとして、次に聞こえたニーナの声にぴたりと動きを止めた。


「ごめんなさいはオレの方。」







「……どうしてニーナが謝るの?」


 状況が分からないまま固まる私に、ニーナの声が身体を伝って響く。


「……アンタってば、守られてくれるって約束したのに、一人で勝手に突っ走っていくし。」


「ごめ……」


 謝ろうとした私をさえぎって、ニーナが額と額をくっつけたまま、小さく首を横に振った。





「どーせオレと一緒だと足引っ張るとか思ったんでしょ?


 ……頼りないのも、アンタじゃなくてオレの方。」


「そんなこと……」


「ん、別にいじけてるわけじゃねーよ?あんたが転ぶのは防げた訳だし。


 ただ、アンタみたいに勇ましいお姫様を守るナイトとしては、まだまだ力不足だなってこと。」


「ナイト……」


「……・え、なんか不満そうじゃね?」


「いや、別にそういうわけじゃ……」


 ちょっと恥ずかしいなって思っただけで、ニーナがナイトで私を守ってくれるとかは素敵だなって思う。


「どうせオレは頼りないですよー。」


 拗ねたニーナがちぇーとつぶやきながら一歩下がって、ようやく見えたニーナの顔。


 それは私が思ってたみたいなふくれっ面じゃなくて、なにか悪戯でも思いついたような表情で。





「ニーナ?」


「……ま、ナイトじゃなくてもいいんだけど。オレとしては。」


 私が呼びかけたのをきっかけに、ニーナの唇が不敵な笑みの形に上がる。


「むしろお姫様をさらっちゃう盗賊とかのがオイシイかもしんない。」


「え……」










 言葉に詰まって見つめるしかできない私の腕を、それでも優しく引き寄せるニーナの手。






「さらわれてくれる?……オレだけに。」






 挑戦的なまなざしに、私の心臓がどきりとはねた。





















jealous of Me




























「ていっ!」


「おりゃ!」


「とりゃっ!」





 どさっ。





「うわっ!?」


「きゃあ!?」


 突然、雪の防御壁が崩れて頭上から大きな雪の塊が降ってきた。





「さーて、雪合戦も飽きてきたし、新名…雪だるまでも作るか。」


「そうだな、土まんじゅ……かまくらでも。」


「ちょ、琉夏さん、琥一さん!?さりげなく物騒なこと言ってません!?」





「もう素直に埋めとけばいいんじゃないか?」


「もう包み隠す気もねぇってどういうことっスか嵐さん!?」





「うるさいぞ、新名。明日には雪も解けるだろうに。」


「設楽さん、それ丸一晩埋まってろってことスか!?どんだけ俺様なんだよこの人!」


「さ、メモ子さん。温かいものでも飲みに行こうか。」


「もう玉緒さん立ち去る気満々だし!どんだけ黒だよこの人!」























☆もう一度!
☆あとがき
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