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□思い出カメラ
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「ないないないー!!」
「どうした?弥子ちゃん」

仕事帰りに寄った魔界桂木弥子探偵事務所。

弥子ちゃんはテーブルや棚の引き出しを開けては閉め、開けては閉めという行動を繰り返していた。

「カメラなくしちゃったみたいで……。おかしいな。確かに事務所に持って来た筈なのに……」
「何色のカメラ?」
「え?銀色ですけど!って笹塚さん!?」
「俺も探すよ」









カメラといえば、あの子を思い出す。




時を遡る11年前。


大学の帰り道。


その日は土曜だったからいつもより帰るのが早かった。



八百屋が安売りをしているらしく、野菜炒めでも作るか。なんて考えつつ八百屋での買い物を終え店を出ると。


「うえーん!!!!」

八百屋の向かいの店で女の子が座り込み、大きな目に涙をたくさん溜めて泣いているのが目に入った。


「あの子、迷子かしら?」


買い物途中の主婦はそうは言うものの、女の子に声はかけない。


「……どうしたの」
「おかーさん、ぐすっ、さきにいっちゃった」
「じゃ、探そう」

俺は女の子を抱き上げて歩き出す。

「名前、何ていうの」
「……やこ」
「そっか。やこちゃんか。大丈夫だよ。お母さんはすぐに見付かるからね」

俺はやこちゃんを安心させようと頭を撫でる。

するとやこちゃんは目を細めて、俺の胸元を小さな手でキュ。と掴む。

俺はやこちゃんをだっこしたまま、歩き始める。









「悪いけど、分からないな」
「……そうですか。ありがとうございました」

さっきから、けっこうの人数にやこちゃんのことを聞いてるけど手掛りは得られてない。

「おかーさん、やこのことをおいてっちゃったのかな……」
「大丈夫。きっといるからね」

また、涙がたまってきた目を見ると早く見つけてあげないと。と俺の中で焦りが増えていく。


「すいません!!その子、ウチの子です!」
「おかーさん!!」
「もう!ダメじゃない!!弥子!!ちゃんとついてこないと!!!」
「ごめんなさい!えとね、えとね!お兄ちゃん!!」

やこちゃんは俺の方にチマチマと歩み寄って来て俺の掌にビーズのブレスレットを載せた。

「これ、お礼!」
「いいよ。やこちゃんが持ってな」
「ううん。いいの!!」

どうやら受けとらないという選択肢はないらしい。


「サンキュー。じゃ、これ」


俺はリュックからカメラを取り出し、やこちゃんに渡す。

「やこがもらっていいの?」
「うん。あげる」
「ありがとー!!お兄ちゃん!!!」










「ありました!!」
「……!!?」

弥子ちゃんの手には俺が『やこ』ちゃんにあげたのとよく似たカメラ。

「笹塚さん!写真、撮りましょうよ!!」
「………」




この笑顔、やこちゃんと似てる気がする。



そんなことよりも。



あのやこちゃんでもそうでなくても可愛い笑顔をプレゼントしてくれる弥子ちゃんとの思い出をこの思い出カメラで写していきたい。






end
 

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