ツメタイソラ‐stranglehold‐
□七話
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しかしそうなると、また新たな疑問が浮上する。
何故幾は異形化を封じてしまったのか?
成獣化のリスクが無くなれば、獣人障害は途端に便利なものになる。まして幾などは、羽が生え空も飛べるのだ。人を食べたいという欲求こそは考えものだが、そうなった時は異形化を解けば良いだけの話。
利用こそすれ、封じてしまうなどあまりに惜しいこと。
その些か矛盾を感じる幾の行動に、周はあれこれ頭を捻るも、今日一日であまりに多くの情報が一気に頭に入りすぎた。
雨は女性で実は幾も半人で、闇の者は人の心を取り戻すことができて。
周の頭脳回路は、容量に耐えかねてショートしてしまいそうだった。
「鏡、成獣化を解け。きっと治まる」
小さい子供を諭すような口調で雨は促す。しかしそれを諌めるように、幾は低く鋭い声を発する。
「駄目だ。解いちゃいけない」
「何を言うんだ幾、鏡之丞にこのまま人ならざる者の声を聞けと言うのか」
鏡之丞が訳の分からない欲望に振り回され、混乱しているのを見ているだけの雨には、歯痒さばかりが募る。
その苛立ちを幾にぶつけてしまわないよう、雨は気をつけたつもりでいたものの、反芻してみるとやはり喧嘩腰になっていた言葉に自己嫌悪し顔を背ける。