ツメタイソラ‐stranglehold‐

□五話
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「導師だからって羽生やしちゃうヤツ見たことねえもん。実はさっきちょっとちびるかと思ったぞ」

 真顔でチキン発言をしながらしっかり幾に言及もする周。

「そうやってヘタレっぽく印象付けて油断させようとしてるんでしょう。それがいつもの常套手段だったり、ね?」

しかしここは根は警戒心の強い幾。周が身をなげうって人を助けるのを二度も見ているので、度胸があり肝の据わった人間だと気付いている。
鋭く突いて予防線を張り、自分の話題をはぐらかすのも忘れない。
普段道化を装っている者同士、実は相容れない二人なのかもしれない。

 すると、鏡之丞が落ちたショックでしばし放心していた雨が、ぴくりと眉を寄せて二人の言葉を遮る。

「静かに。……何か聞こえるんだ」


 三人は緩やかに暗がりの底へと降下していく。光の射さない闇に染まっていくに連れて崖下から微かな轟音が聞こえ始める。

「川……?」

うっすらと冷気を伴って岩肌に反響して聞こえてくるその音は、間違いなく水の音である。
それも清流のせせらぎなんてものではない。怒号のように猛り狂う荒々しい流れの、である。

「うへぇ、直に落ちなくてよかったー。これ泳ぐ自信は無いわ」

周は片方の眉を吊り上げて情けない声を出す。
泳ぐ泳がない以前にこの高さをまともに落ちれば、水面にぶつかる衝撃は最早コンクリートに打ち付けられるのと同じである。誰だってひとたまりもないだろう。
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