ツメタイソラ‐stranglehold‐
□三話
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それは『獣人障害』と言われ、興奮する事によってまるでアレルギーのように突発的に現れるものであった。
人間は日常生活において本来持つ身体能力を最大限に発揮することはまず無い。身体に負担をかけないよう、脳が抑止するからである。しかし“火事場の馬鹿力”という言葉があるように、人間は窮地に陥ることで眠っている本来の力を呼び覚まし発揮できることがある。その時の力というのは人間のそれとは思えないほど強大なのだ。
そしてその“火事場の馬鹿力”を容易に発揮させてしまうのが『獣人障害』なのだ。
ちょっとの興奮で人間離れした身体能力を得、同時に人間のような獣のような歪な容姿になってしまう。ただそれだけならば利点の方が勝っているように感じられるが、やはり得てしてそれなりのリスクは付き物なのであった。
“成獣化”である。
怒りなどによる極度の興奮が長時間続き異形化が進み続けると、『闇の者』と呼ばれる完全なる獣の体と化し、二度と人の姿に戻ることができなくなる。
それだけではない。人間でなくなった獣は自我を失い、急激な進化で枯渇した身体はやがて血に飢え臓物を嗜好するようになる。人としての心を失ってしまうのだ。
そしてそんな状態でどこぞの組織に捕らわれでもしたら、殺戮兵器として虐げられる事は免れ得ない。
雨が鏡之丞を心配するのはそういった理由があったのだ。