ツメタイソラ‐stranglehold‐

□二話
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 落書きと言っても、必要最低限の旅道具しか持たない彼らはペンなど持っていない。それなのに幾がペンを持つマネをし、書くフリをすれば、無いはずのペン先からスラスラとインクが出ていた。

「『魔術』ってずるいよな、何でも出来るんだから。俺にも酒出せよ幾。」

「現代科学の最先端に向かって頭が高いんじゃないかい?鏡之丞くん。」

 幾が使っている不思議な力は『魔術』と呼ばれるものである。

『魔術』とは、質量保存の法則に従って、物体を別の物体に組み換える力。つまり“有”から“有”を生む、この世界では立派な科学の一つなのである。

 ただ『魔術』とは別に、何も無い所から何かを創る、つまり“無”から“有”を生む『魔法』というものも有るのだが、こちらについては仕組みは謎だらけで、科学的にも未開拓なのである。

「所でお前、そのインクどっから調達してんだよ?」

「そこかしこで注文聞いてる店員さんのペンから、ちょっとずつ拝借してんの。誰も困らないでしょ?この配慮、僕ってホトケサマのようだよね。」

「……チンケな泥棒だな」

 頼んでもないのにペラペラと自らを称える幾を、鏡之丞は呆れ顔で一蹴した。
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