ツメタイソラ‐stranglehold‐
□九話
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蜜葉は、両手で包んだ鋭利な爪と毛の生えた鏡之丞の手を少し持ち上げ、何とも言えない表情でじっと眺めていた。ただ、その目は決して好奇や侮蔑を孕(はら)んだものではなく、労りや、そしてどこか悔しさのようなものを滲ませていた。
「失渦くん、お兄ちゃんは、なぜ成獣化してしまってるの……? どうして、こんな……」
「細けぇ事はいいじゃねぇか。こうしてまた、生きて蜜葉に会えたんだから」
鏡之丞はそう言って、なんてな、と照れを誤魔化すように笑った。すると蜜葉は目をまんまるにしてハッと顔を上げ、強く握っていた鏡之丞の手を取り落としそうになった。
「は、話せるの!? だってそんな、自我が保たれて……!」
蜜葉はとても信じられない、といったように小刻みにふるふると首を横に振る。すると雨が苦笑混じりに言った。
「そろそろこの反応にも慣れてきたな」
「今自分がバケモノなの忘れて格好つけた……すげぇダッセー」
鏡之丞は頭を抱えてしゃがみこみ、わざと大仰に恥ずかしがってみせる。それを見下ろす雨は、肩を上下に揺らしてくつくつと笑った。