ツメタイソラ‐stranglehold‐
□八話
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「幾が首狩りだったのが四十年前だぁ? んな馬鹿な!」
失渦が告げた言葉にすぐさま反論する鏡之丞。しかし失渦の表情は真剣そのもので、決して嘘や冗談を言って茶化している風ではなかった。
「入団記録にはそうある。俺達も驚いた」
「そんなん紙切れ一枚だろ!? 常識で考えてあり得ねぇだろが! あんな元気な爺さんが居てたまるか!」
「……取り敢えず診療所へ向かおう。話は車の中でもできるだろう」
ここで議論していても仕方がない、と雨は鏡之丞と失渦を車へと促す。渋々ジープへ向かう鏡之丞の足取りは、先程よりも大分しっかりしたものになっていて、雨は成獣化した半人の治癒力に驚かされた。
「鏡、さっきより元気そうだな?」
「あぁ、そう言われれば目眩がしなくなったな。まあ流石に、折れたあばらがくっついたりはしてなさそうだけどな」
肋骨の辺りをさすりながら笑う鏡之丞。そんな状態で雨達三人を相手に戦い、しかも圧していたのだから、闇の者の力は底知れない。
「……お前は驚かないのか」
失渦が、静かに運転席のドアを閉めながら雨に問う。先刻失渦が告げた幾に関する話は、雨と鏡之丞にとっては衝撃的だったはず。にもかかわらず、雨は冷静でさして驚いてもいないようだ。