ツメタイソラ‐stranglehold‐

□七話
1ページ/28ページ

 雨と幾と鏡之丞、三人の会話を遠巻きに眺めていた周だったが、どうにも訝しく思う事があった。

 それは、幾がやたら『成獣化』に関して詳しい様子であることだ。


 幾自身が半人である以上、異形化や獣人障害に詳しいのはそれなりに頷ける。しかし成獣化や闇の者に詳しいのは道理がいかない。

 今まで堕ちてしまった人間の中で、自我を取り戻した者は誰一人としていない筈なのだ。経験談を語れる者がいないのに、どうして知ることができようか。

 また、つい先程鏡之丞の様子がおかしくなった時、幾は鏡之丞に迷わずお腹が空くのかと訊ねた。

 自我を取り戻すという、普通起こり得ない筈の奇跡が起きた鏡之丞に、まだ人を食べたいと思う飢餓感が生きているなどという事は、少なくとも周にとっては思いもよらない事。それなのに、幾の口振りはまるで知っている事であるかのようだった。


 そこで周が抱いた疑念、それは幾も一度堕ちて成獣化した経験があるのではないか、という事だ。

 こうして成獣化したにもかかわらず自我を取り戻せた、という鏡之丞の実例を目にした今、幾が同じことを過去に経験した可能性は否定できない。
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ