ツメタイソラ‐stranglehold‐
□四話
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鉄工業の盛んなこの都市の夜はまだまだこれかららしい。
月光の金波銀波を感じさせない人工的な歓楽街の灯、建ち並ぶ屋台の煙臭さ、盛大に酒をあおる人々。そのどれもが、普段開放的な賑わいから遠ざかっている三人の心を昂らせる。
「いや随分な活気だねえ。騒がしいし明るいし、とても夜とは思えないよ」
ニコニコしながら歌うようにそう言う幾に、鏡之丞が小首を傾げて意外だと声を漏らす。
「お前昔ここに住んでたんだろ?来た事ねえのかよ、歓楽街」
「僕が住んでたのはこの都市の東側、静かな住宅街さ。歓楽街の多い西側は少し敬遠していたのさね」
この比較的大きな都市は、東西南北にそれぞれ住宅街、歓楽街、工業地帯、都市機能の中枢部とほぼ綺麗に区分けされている。幾が住んでいたのは、三人が初めて出逢った場所でもある東側の住宅密集地帯であった。
「ではここいらを歩くのは初めてか?」
雨が幾に目線をやって言う。
「ほとんど初めてに近いよ。こんなにも雰囲気の違うものかねえ」
細長い腕を組んで、幾が感心するようにうんうんと頷いて言う。