駄文
□Kiss me.
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獄寺の家に寄り道して、一緒に勉強しようということになって。一緒にというより教えてもらってばかりなのだけど、と綱吉は少しだけ笑う。
一緒に、と誘うところが多分獄寺なりの配慮というか優しさなのだろう。あくまで友人らしく恋人らしい、自然で気をつかわせない方法だから。
難解な数学の問題も迷わずすらすらと解いている横顔はやはりかっこよくて、ちらりと目が合ってはにこりと笑う。
Kiss me.
課題のプリントと格闘していれば、熱を持った唇が不意に額に触れ。
綱吉はきゅっと身を縮めて、どきどきする胸を押さえてちら、と上を向く。
偶然に合った視線の先では獄寺が眩しい程の笑顔で笑ってくれて、綱吉はちょっとだけ照れくさくなる。
「……びっくりしちゃった」
照れ隠しに綱吉は前髪を整えるように触り、獄寺の唇に視線を送った。
ああこんなに綺麗な唇がふれたんだなぁなんて一度でも思ってしまえば、物凄く恥ずかしくなる。
「すみません、なんかきれいだなーって思ったら急に、キスしたくなっちゃって」
「きれいとか言わないでよ、恥ずかしくなるじゃん」
「……可愛いっす、10代目」
顔が赤く染まっているのは、どうやら気づかれているようで。赤くなった頬に再び柔らかな唇が触れては離れ、触れては離れを繰り返した。
「くすぐったいってばもう、やめてよ獄寺くんってばー」
まるで犬か何かに舐められているような感覚。かわいくてかわいくて仕方がなくて、幸せで小さな疼きが綱吉の胸に生まれる。
たまに噛みついたり、舐めたりを繰り返されてはくすぐったくて堪らない。
獄寺は悪戯っぽくにかっと笑い、軽く華奢な綱吉の身体を背後のベッドに押し倒す。力を入れた覚えはないのにいとも簡単に後ろへ倒れてしまうから、また可愛らしい。
「…一生やめないんで覚悟してくださいよ、10代目?」
「一生続けたら本気で怒るからね?」
「一生、続けたいです。一生10代目のお側で」
でも今は続けていいですよね?、と獄寺が耳に唇を寄せて囁く。そして瞼や髪、項や耳朶に次々唇を落としてゆく。
指先は首筋を優しく撫でていて、なんだかくすぐったい幸せに心が満たされるような気がする。
しつこいほど頬をなぞる唇を手のひらで遮った。綱吉はふふっと笑って、手のひらごと顔から遠ざけようと少し力をいれて押した。
「…10代目のいじわる」
赤い舌が、ちろりと手のひらをなぞるかのように舐める。
「ひぁ……っ」
「おしおき、ですよ」
獄寺は綱吉の細い指先を口に含み、舌をゆっくり這わしていく。
恥ずかしさに綱吉はぎゅっと目を閉じる。
体が震えて、力が入らない。
一生こんなことされていたらきっと、身が持たないなぁなんて考える。
恥ずかしさで頭の中がぐるぐるして、なんだかぼうっとした。
すると、ちゅっと音を立てて唇が指から離れる。つやつやと光る濡れた指先の行き場に困って獄寺の顔を見上げれば、色を帯びた熱っぽい視線。
「……おしおきした獄寺君に、俺からもおしおきさせてもらうよ」
「10代目のおしおきでしたら喜んで」
ばか、と言うと、余裕たっぷりで覆い被さる獄寺にぎゅっとしがみついて今日一番の甘いキス。
「これが……おしおき、ですか?」
かわいーです、と綱吉の額に唇を寄せれば、綱吉はにかっと笑う。
「……ばか、まだ続けていいなんて言ってないのに」
「んなわけないじゃん」
「じゃあおしおきってなんですか」
「だから、さ」
綱吉は頭上にいる獄寺に、そっと耳打ちする。
「続きは…勉強のあとで」
ね、と艶っぽく微笑む綱吉に、獄寺は子供のような拗ねた顔をする。
「焦らすんですか……」
「だから、おしおきだってば」
「10代目、頑張ってプリントなんか5分で終わしちまいましょう!」
しかたないですし、と獄寺が体を起こす。その表情はいつもの優しく温かい笑顔で、なんだか妙にそれが嬉しくて。
「俺、数学苦手だしさ。もしかして…ていうか絶対5分以上かかるよ?」
そんなぁ、と大袈裟な位に獄寺の表情は泣き出しそうになる。綱吉はぷっ、と笑って獄寺の暗い顔に手を伸ばす。
「だから、さ」
綺麗な頬に触れて、慈しむように目を細めた。獄寺は、小さな手の温かみに胸を高鳴らせる。
「獄寺君、教えてくれるよね」
はい、と勢いのある返事。
綱吉は獄寺の赤く染まる頬から手を離し、その代わりに少しだけキスをした。伝わる温かみに、更に目を細めて。
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