駄文

□Jasmine.
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無機質な印象を与えるその部屋に飾られていたのは、それはそれは綺麗な花。



【Jasmine.】




「すごくいい香りだね、この花」
すう、っと匂いを嗅いで、綱吉はにこりと笑った。見たことのない花は甘美な香りを辺りに広げていた。


「それ、ジャスミンです。白くて愛らしくて、まるで10代目みたいで素敵だと思いまして」

「そんな理由で買ったの?……全く獄寺君ってば」

「そんな理由、とかじゃないです!10代目はかわいらしくて愛らしくて、本当に何より素晴らしいです!」


獄寺が突然大声を出し真顔で力説すると、ジャスミンの話をしてたんだけどな、と綱吉は笑った。

その表情はやはり白の似合う綺麗な顔で。花と並ぶ綱吉の柔らかな笑顔を見て、獄寺の胸は高鳴る。花なんかとは比べ物にならないほど魅力的な恋人が、花よりも綺麗に笑うから。



「10代目は花がお好きなんすか?」
ふと思って尋ねると、綱吉は申し訳なさそうにちょっと笑う。


「俺さ、花は全然詳しくなくてさ。この花が何ていうのかも知らなくて」
「まぁ俺も実を言うと花はよく知らないんです。この花についてでしたら花屋に聞いたんすけど」


なあんだ、と綱吉は呟く。すみませんとしょんぼりする獄寺をみて、何で謝んのと笑う。


「この花、なんかいいよね。いい匂いだし、好きかも」
綱吉が何気なく言うと、獄寺は勢いよく立ち上がってジャスミンを花瓶ごと綱吉の方へ差し出した。

「ぜひ10代目のおうちに飾ってください、きっと花も喜ぶはずです!」
「い、いいよ別に!獄寺君の家に飾っておけばいいじゃん、俺いいってば」


慌てて断ると、獄寺の顔は今にも泣きそうな表情へと変わった。どうしたのと声をかけると肩を掴まれて、訴えかけるような目で見つめられる。

「10代目は……俺の気持ちを受け取ってくださらないんすね、やっぱり俺なんかを右腕として認めてはくださらないんすよね」


寂しそうな声でしょんぼりと、ぼそっと言う。綱吉は居たたまれないような気分になって、獄寺のウエストに抱きついた。


「……解ったよ、じゃあ家に飾らせてもらうから。…それでいいかな」

「はい、ぜひそうしてやってください!」

急に明るい声で返事が返ってくる。抱きしめてるせいであいにくその表情の変化は見られなかったけれど、きっといつもみたいににかっと笑っているのだろう。



廻した腕をゆっくり離すと、肩を掴んでいた手もだんだん緩んでいく。片足ぶんくらいの間をあけて二人は立っていた。
ただ見つめあうままに数十秒経つ。すると意を決したように獄寺が口を開いた。


「本当はですね、この花は最初から10代目に差し上げるつもりで買ってきたんです」
そして照れくさそうに頬を掻き、視線をずらした。よく解らずにぽかんとしていると、獄寺は綱吉の耳元に顔を寄せる。

「ジャスミンの花言葉は、『温和・愛嬌・無邪気……官能的、私は貴方のもの』なんですよ」

「………っ」


顔を赤らめると、言った本人は耳まで赤くなっていて。かわいいなと銀色の頭を撫でると、まるで大きな犬をあやしているような感覚になる。

「獄寺君、ジャスミンってなんかえっちだね」

「…すみません」

「ジャスミンが俺みたいだなんてさ、まるで俺が獄寺君のものみたいじゃん。……ばか」
なんだか嬉しいような恥ずかしいような気持ちが入り混じって、綱吉は顔を隠すかのようにそっぽを向いた。






風邪に乗って優美に広がる、愛に溢れたジャスミンの香り。
結婚式のブーケによく使われる花だと知ったら、10代目はどんな顔をするだろうと。獄寺は、真っ赤な顔の綱吉を腕に抱き寄せてから少し笑った。





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