長編

□Don't Touch Me!
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「…暇そうだな」

未来の大剣豪くん。





風のない夜。
見張り台の狭い床の上に毛布一枚引っ掛けて登ったのはつい先程のこと。
片手には先の島で購入した安いラム酒。
肴は、眩しい程に輝いた満月と星。
もうとっくにお子様たちは寝静まった時間帯。

酒をボトルから直接喉へ流し込んでいたその時、そんなことを言われた。
「――ああ?」

揶揄われている、そう判断して声の主を睨み付けた。
月明かりに透ける金髪が夜目にも係わらず眩しい。
一瞬目を細めたゾロは、片手に夜食を携えて登ってきた料理人を睨みつけ、ラム酒を床へ置いた。
暇そうだ、とは何事だ。自分は今から寝ずの番に入るところだというのに。

金髪を揺らしながら見張り台に入り込んできた男は、音も立てずに着地した。
睨むゾロを気にした風もなく、飄々とした態度で隣に腰を下ろし煙草に火を付ける。

「夜勤ご苦労さん」

その夜食は不寝番である自分の為に作られ、運ばれてきたのではないのか。
腰を下ろすなり、その夜食である握り飯を頬張りはじめた料理人にゾロは思わず突っ込みたくなった。

「むぉっ!流石オレ。絶妙な塩加減だ」
むぐむぐと口を動かしな
がら自分の料理を絶賛する姿はまるで小動物のようだ。

ゾロは喉まで出かかった文句を酒で流し込むと、自分も料理人に習って運ばれてきた握り飯を口に放り込んだ。

確かにその塩加減は絶妙で、空腹ではなかったゾロだったがあっという間に平らげていた。

…美味いな。

食欲をそそるその味わいを余すことなく堪能している横で、料理人が満足そうに口角をあげる。

月がそうさせるのか。
その笑みがどこか妖しげでゾロは無意識に魅入いっていた。

「美味かったか?」
「…絶妙」

夜間に見ると濃く深い青の瞳が覗き込んでくる。素直に美味いと言ったことなどないのに、わざわざそんなことを聞いてくるこの男の目が悪戯に光っている。
その瞳の光で妙に胸を高鳴らせながら、ゾロはラム酒を煽った。

「ははっ」
絶妙ねェ、と。
どうやら褒め言葉として受け取ったらしい金髪は、機嫌良さそうに煙を吐き出して微笑う。

そうだろ、そうだろ。
やっぱり俺の飯は最高だ。
そう顔に書いてある。


この料理人。
普段はポーカーフェイスな癖して2人になるとこんな風に分かりやすく表情を晒したりする。

しかしそんな分かり易い表情でも実は何を考えているのかは解らない。
今日は何をその表情の裏に隠してきたのか。

本心までは読めなくともなんとなく当たりを付けたゾロはその金髪男の口から煙草を抜き取り、唇を重ねた。

「――…」

目を見開いた金髪の料理人と至近距離で目が合う。
探るように青い瞳を覗き込むと、目尻を綻ばせ料理人が微笑った。

軽く吸い付いた下唇がぷるりと揺れる。
離れ間際にそれを舌で舐めてやると、名残惜しげに唇が開いた。

「…なんだ、もう終わりかよ」

酷く不満げに料理人は零し、捕られた煙草を奪い返そうとゾロの方に腕を伸ばす。
それを軽くかわしながらゾロは料理人のネクタイを引いた。

「欲しけりゃ奪えよ」

細い首筋から仄かに香る料理人の匂いを嗅ぐ。
香水は付けてない筈だが甘く旨そうな匂いがする。
今夜来た理由はやはり誘いにきたのか。

ふ、と口元を歪め、ゾロは目の前にある耳たぶを食んだ。

ぴくりと揺れる金髪がゾロの頬を擽るように流れてゆく。
くすぐったそうに身を捩る料理人が、緩慢な手つきでゾロの胸元を押した。
その微弱な行動は拒否ではなく寧ろゾロを煽るために動いている。
金髪の産毛にふう、と呼吸を当ててやれば面白いくらい鮮やかに色付く耳たぶ。
その膨らみを味わうように舐めると、料理人の肩が小刻みに震えた。
視線を下げれば粟立つ項がよく見える。

「おい、煙草いらねェのか」

吹き込む要領で耳に声を送り込んでやれば、今まで胸元にゆたりと置かれていた手が、ギュッと襟元を掴んだ。

ぐい、と引かれたかと思えば同じように耳元で囁かれる。

「いらねェよ」

途端。
ゾクリと背筋に痺れが走る。
見えずとも、料理人の唇が弧を描いたのが解る。
耳元に唇を当てたまま、捨てちまえ、と言われれば少し面白くない。
面白くないものの、代わりにコイツ自身で遊べる。
ゾロは指に挟んでいた煙草を見張り台から海へ放り投げた。

それから性急に金の後頭部を掴み、引き寄せると少々乱暴に唇に噛み付いた。
先ほどから緩んでいた唇に舌を遠慮なく侵入させる。
料理人は誘っておいて随分消極的な態度でゾロを受け入れた。

追いかけっこのように咥内を弄る舌と唇から漏れる水音が更にゾロを興奮させていく。

時折出るくぐもった声はやけに鼻にかかっていた。
しかし確認するように料理人を見れば、切れ長の瞳が揶揄するように光っている。

いつからこんな強請り方するようになったんだ、こいつは。




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