短編

□壊帰
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「晋助、」

俺はここにいる。ずっとここにいる。だけどお前は来ねぇ。分かってる、分かってるけど

──だからこそアイツに心揺れる。

「…万事屋、今日飲みに行かねぇか?」
「多串くんが奢ってくれるならかまわねぇけど」

ほら、てめぇがいつまでも来てくんねぇから。俺はコイツのとこに行っちまう。

「銀………とき」

酔い潰れ、カウンターに突っ伏する土方の口から微かに漏れた己の名前。思わず身体が跳ねたのはただの反射か、それとも。

「お前は……」

俺の前からいなくならないか?
アイツみたいに俺を置いて遠くへ…

突っ伏し黒髪しか見えなくなればコイツが晋助なんじゃないかと錯覚しちまう。そんな筈ねぇんだけど。

「ほら帰るぜ、起きろよ」
「ん………」

ふらふらな土方を支え屯所までの夜道を歩く。満月のお陰かいつもより明るくてかぶき町のネオンなんか必要ないほど。隣で無言を貫く男に、心の中で訴えた。

なぁ土方、俺はお前も好きだよ。
でもな、まだあいつも忘れらんねぇ
もしかしたら来てくれるんじゃねぇかって。

そんな筈ないって分かってるのに馬鹿みてぇだよな

ざわ、と少なくなった枯葉が擦れた音を奏でる。


「銀時……」
「……!!」

…嘘だ。どうして、今更、
あいつが来た───

「しん…助」

どれほど会っていなかっただろう。久しぶりの再会に胸の内が微かに弾む。だがそれとは裏腹に高杉の片眼は細められじっとりと傍らの男に注がれていた。

「こいつは面白ぇ…白夜叉と戌が仲良くしてるなんてな。俺の居ねぇ間にいい男見つけたじゃねぇか銀時、」
「違…こいつとはそんなんじゃ…」

「高杉、晋助か!?」


銀時の肩にかかっていた重さがフッと消えた。それと同時に歪められた高杉の口から紫煙が洩れる。喉の奥でクツクツと笑うその姿に言い知れようのない悪寒を感じた。そして、火花が散る──

「こんなところにのこのこ出てくるなんざどういう了見だ?」

刀身越しに睨み付ける土方に対し、高杉は余裕の表情で笑ったがその鋭い相貌は土方を射ぬいている。てめぇには関係ない話だと言わんばかりに…

「銀時が世話になったな。」
「どういう意味だ…」

その問いに答えぬまま、高杉の刀が土方を圧倒し始める。

「ぐ……」

酔っている所為もあってか土方はいつもより動きが鈍い。足に力が入らず終には力負けし、片膝を付く。と同時に高杉は土方の刀を弾き飛ばした。

「くそ……っ」

斬られる、そう思ったが高杉は興が冷めたとでも言わんばかりに一つ息を吐くとこちらに背を向けた。

「なっ……」
「銀時。かかってこいよ」

土方など存在せぬかのように銀時に向き直るとクスリと笑った。

「……………あぁ」

落ちていた土方の刀を掴んだ銀時の顔に、僅かな喜色が表れたのを土方は見逃さなかった。そして独特の金属音が辺りに響き渡る。手加減している様子など微塵も見られない。だが牙を剥き出しにし、刄を重ねる二人の表情は何処か穏やかだった。

これだ。俺はこれを求めていた。見せかけだけの刄など何の役にもたちはしない。やっぱりコイツじゃなきゃ。あぁ、悪いな土方。お前はこっちに来れないだろ?テメェの太刀筋にはまだ迷いがある。極僅かだがそれでも俺には足りねぇ。

極限の命の奪い合い。そこに言いようのない快感を感じる。

「なかなかやるじゃん?」
「はっ…テメェもまだまだ衰えてねぇようだな……よし」

突然刀を止めた高杉に土方は疑問を抱く。この二人は何をしてるのか。己には全く意味が分からなかった。

「どういうことだ……?」

漸く口にした言葉も二人にとってはつまらない問いであった。

「俺たちは好きだの愛してるだのそんな陳腐な言葉で括れるような関係じゃねぇんだよ……テメェには一生理解出来ねぇだろうがな。銀時の相手が出来るのは俺だけだ。ましてや幕府の戌が入り込むような隙間なんざあるわけがねぇ」
「………っ!!」

「悪い……土方。俺はやっぱり」

コイツじゃなきゃ駄目みてぇだ


遠ざかる足音に己が交わることはないのだと知っても尚、諦めたくないという思いがある。だが身体は圧倒的な差、己との違いを受け入れ伸ばしていた手を止めてしまった。あれ程焦がれていた存在は決して手にすることは出来ない。

銀時に触れる隻眼のあの想いを直に目にすれば勝機など有りはしないのだと自ずと悟ってしまったのだ。

どれだけ月に縋ろうとしてもそれは空を掻くだけである。時には悪戯に雲がその存在をも隠す。月明かりに微かに薄まった雲があの煙管の紫煙のように漂う様を遥か遠くから恨めし気に眺める己が卑しく思えて仕方なかった。



End
────────


えーっとですね。高銀、です一応(汗
土方が主人公になってしまって自分でも今驚いておりますよ。銀←土で少しだけ登場させるつもりがまさか(苦笑)

本当リクに沿えてなくて申し訳ないです。1位だったのにな…


2009.12.25 秋花

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