短編2

□荒涼の彼方
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 荒れ果てた大地に血生臭い風が吹き抜ける。幾重にも積み重なった天人や人間の死体は最早その区別すらつかない程であった。


「……くそっ」

そんな惨々たる光景の中、銀時は一向に減る様子のない敵に一人悪態をついていた。
大きな斧を振りかざした天人の懐に素早く入り込むとその喉元を切り裂く。返り血を浴びる間も無くその天人を踏み台にして飛び上がり、着地と同時にその場にいた二人を斬り伏せた。そして屈んだ状態から今度は大柄な天人の足元を蹴りで掬い、鞘で攻撃を防ぐと右手の刀は敵の首を捉える。一見軽やかに見える身のこなしだが、その右手は確実に天人の急所を突いていた。そして小一時間が過ぎ、戦いにも漸く終わりが見えて来たかと思える頃。

「銀時っ…!」

遠くから桂が走って来るのが見えた。微かにだが天人の叫び声が響いている。まだ向こうには沢山いるのだろう。

「ヅラ、無事か?」
「あぁ、あとヅラじゃない桂だ。すまないが坂本の隊が苦戦しているようだ。俺と応援に行ってはくれまいか」
「了解ー」

気の抜けた返事と共に駆け出す二人。坂本の元へと急ぎ、途中に立ちふさがる天人も難なく斬り捨てた。

「…辰馬!!」
「おぉ金時か!!すまんのー苦戦しちょるき」
「かまやしねーよこんくらい」

軽く言ってのける銀時に、金時には適わん、と坂本が笑った瞬間だった。

「伏せろお前ら!!」
「───ッ!!?」

桂の叫び声と共に銃声が響く。その余韻も薄れ、辺りが再び刀の重なる音に溢れ出した頃。

「何じゃ…?」

咄嗟に屈んだ坂本には何が起こったのか分からなかった。だが、

「銀時!!」

桂の声に反射的に顔を上げればそこには。

「おんし……」

坂本に覆い被さる状態で立ち、腹部を左手で押さえ微かに呻き声をあげる銀時がいた。

「はっ…大丈夫か、辰、馬…」
「…何しとるがか!!わしなんかほっといて良かったんじゃ!」

怒る坂本を見て困ったように笑うと銀時はその場に片膝を付く。

「弾が中に残っているかもしれん。見せてみろ銀時」

駆け寄った桂は急いで銀時の左手を引き剥がした。そして、

「…………は?」

その場に似つかわしくない情けない声を発した。それを聞いた坂本も覗き込むと同様の反応を示す。

「…ん?」

撃たれた筈の、赤に染まっている筈のそこは、真っ白だった。

「ぷぷっ、…騙されてやんの」

してやったり顔でにこやかに笑う銀時を見て、桂の額に青筋が浮かび上がる。

「なるほど……俺を騙したと…?」
「何、俺が撃たれるとでも思った?んな丸わかりの殺気最初っから気付いてんだよ」
「う………」

何気ない言葉が全く気付かなかった坂本にぐさりと刺さる。

「ほら、辰馬の手伝ってさっさと終わらせようぜ?」

そう言うと敵の真ん中に突っ込んで行く銀時に桂は呆れ、何も言えなかった。





「ふぅ…終わった終わった」

敵の血に汚れた身体で、銀時は桂と坂本と共に本部へと戻った。早く身体洗いてぇ、と苦笑しながら廊下を歩いていると、

「っ…銀時!!」

血相を変えた高杉が向こうから走って来る。その理由が分からない三人はその場できょとんとしていた。

「撃たれたってのは本当か!?何処を撃たれた腹か?早く横になれ、血塗れじゃねーか…!!」

一気にまくし立て銀時を抱え上げそうな勢いの高杉に三人は思わず吹き出した。

「高杉、銀時は撃たれてない」
「………な、に…?」

本当か、と銀時を見れば笑いを必死に堪えながらも頷いた。

「────っ!」

自分の失態に気付いた高杉は顔を真っ赤に染め上げる。

「心配症じゃのー晋助は」
「可愛いとこもあんじゃん」

坂本と銀時にからかわれ、煩い、と呟く高杉だがその身長差もあってか三人に頭をもみくちゃにされる。

「っやめろ!!触んじゃねぇ!」
「うんうん、晋ちゃんは可愛いねぇ」
「晋ちゃんって呼ぶな!!」



幼い頃の暖かい雰囲気がその場を包む。じゃれ合う三人を少し離れた所から見て坂本はふ、と微笑んだ。



end.




壱さんの誕生日お祝い小説でした。リクにちゃんと沿えてますでしょうか…?

誕生日おめでとうございます。遅れてすみません。
いっちー大好きでs(ry


2009.10.19 秋花

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