短編2

□他人行儀
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「おはようございます」

最近ここに住む胡散臭い銀髪の男の元で働きだした。自分でもよく分からないが侍としての生きざまに引き付けられたのだと思う。

部屋はシンとしている。やはり今日もまだ寝ているのだろう。和室の襖に手を掛けてがらりと引いた。

「銀さんまだ寝てるんですか?いい加減、」
「…お、はよ」
「……おはようございます。起きてるなら早くご飯食べて下さいよ」

それだけ言うと襖を閉めた。すたすたと台所へ向かいながら思う。

(また、か──)

銀さんは咄嗟に誤魔化していたが襖を開けた瞬間右手は木刀へ伸びていた。こういう事は、よくある。

ソファーでジャンプを読んでだらけているように見えてこちらの気配を気にしていたり、今のように急に話しかけると身構えたり。一見自分に雑用を押し付けて怠けているようだが、意外と気を遣われていると気付いた。いや、正確には気を許していないと言うべきか。

「新八ぃ、飯まだ?」
「あ、すみません!今持って行きます!」

結構な時間考え込んでしまったようだ、銀さんは既に着替えていた。

「いただきまーす」

食事の時も木刀はすぐ横にある。自分は道場剣術したやってこなかったから分からないが、本物の侍とはこうも常に気を張っているものなのだろうか。そう思いながら茶を啜った。

(っと、そう言えば……)

ここに来る途中で貼り紙を見つけたのだ。ペットの捜索願いだとかで報酬も結構多かった。依頼人が来ないのならこちらから出向かないとお金は入らない。悪いと思いつつも電柱から剥ぎ取ってきたそれを銀さんに見せよう。

「そうそう銀さん、こんな貼りが」
「っ、」

一瞬だった。懐に手を入れた僕の動きに反応して銀さんが木刀を構えたのだ。

「あ…わ、悪ィ…そんなつもりじゃねぇから…」

ただ呆然とする僕に慌てて銀さんが弁解する。罰が悪そうに木刀を放すとちらり、とこちらの顔を伺ってきた。

「別に怒っても恐がってもいませんよ」
「そ、そうか?」
「はい。そりゃ驚きはしましたけど」
「スミマセン」

銀さんは困ったように少し笑う。

「反射みてぇなもんでさ。つい身体が反応しちゃうんだよな」
「銀さんは…そういう反応が必要なところにいたんですね」
「まぁ、な」

少し踏み込み過ぎたかとも思ったが答えてくれた。

「ゆっくりでいいです。少しずつ僕が居ることに、人と暮らすことに慣れてくれれば」

そう言えば銀さんは照れくさそうに頬を掻いた。

「…ありがとな。銀さん頑張るわ」
「はい」

頑張って克服することでも無いんだけどそういう所がまた銀さんらしいな、とつい笑ってしまった。

「な、なんだよ…」

笑われたことが不服だったのか少し不機嫌そうに睨んでくる。

まだまだお互い不器用で、どこか人見知りで、本音で話すことはあまり無いかもしれない。けれど、今みたいにだんだん銀さんの心を知っていって家族のように気兼ねなく暮らせる日はそう遠くないんじゃないかな、と先が楽しみになった。


───────

かなり初期の話。まだ人と暮らすことに慣れてない銀さんと新八の少しぎこちない日常です。

新八への対応に困る銀さんとか大好物です。

拍手にするつもりが失敗したので普通にうp。

2012.02.21 秋花

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