短編2
□倒壊アビリティ
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重い、ああ、重いなぁ。
兎に角肩が重い。それは日に日に重さを増している気がして、嫌になった。
(……下ろしたい)
すっきりさせたい。がらんとした万事屋で、木刀片手に立ち上がった。
ばき、テレビが倒れる。ぼきり、テーブルが折れる。ばきん、ぼき、と木刀はそこら中の物を抉る、壊す。
(重い、まだ重い)
肩は軽くならない。どうして。いっそのこと、肩を壊してみようか。そうすれば、勝手に落ちていくかもしれない。そうだ、それがいい。
思わず口元に笑みを浮かべて木刀を振りかぶった。狙うのは勿論左肩。
「くくっ……」
(これで、軽くなる)
嬉しくて嬉しくて思わず声が漏れる。そして右手を振り下ろした。
「銀ちゃんんんん!」
ばん、という音がして肩を壊す前に木刀は吹っ飛んでいた。
(あ、れ…)
直後腰回りに纏わりつく何か。見下ろせばピンクの頭が腹に押し付けられていた。
「何してるヨ!銀ちゃん大馬鹿アルっ!」
泣きそうな顔で怒る神楽を見て頭の靄が一気に晴れた。
「かぐ、ら?」
そうして部屋を見渡して、やっちまったと思った。玄関には酢昆布の入った袋が落ちている。未だ顔を上げない神楽の頭を撫でながら悪ィ、と謝る。
「何考えてるヨ…馬鹿」
「ありがとな、止めてくれて」
自分は臆病になっていたのだ。一度は諦めたのにまた背負い始めた。それがどんどん増えてきて、大事になって、そして怖くなって。護り通すと決めたのに自分から背負ったものを下ろそうとしていた。
(情けねぇ、)
「酢昆布おごれヨ。そしたら新八には誤魔化しといてやるネ」
見れば、神楽がいつも通りのいたずらっ子のような顔をしていた。
「頼むわ、」
部屋は滅茶苦茶、新八には何があったのだと問い詰められるだろう。今の内に少しでも片付けておくか、と床に転がるものを拾い上げたところで。
「銀ちゃん、私は簡単には居なくならないアル」
そんな言葉が聞こえて思わず振り返ったが神楽は何事もなかったように片付けを始めていた。まったく、女の勘は侮れない。
(本当に、俺ァ情けねぇや─)
自分よりよっぽど心の強い家族の存在に心が温かくなった気がした。
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突発文。ちょい病み銀さんでした。
どうしてもシリアス系統になるな。
2012.02.15 秋花