短編2

□彩愛
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早朝の空気が身体を縮こませるには十分な位に冷たくて未だ薄手だった掛け布団を思わず頭まで引き上げる。元々朝に弱い自分にとってこれからの季節は布団の魔力が増すばかりで到底あらがえるはずもない。日照時間も短いのだ。太陽のように長々と潜り込んで何が悪い、と新八には都合のいい言い訳をすることにしよう。だから朝食だと呼ぶ声は無視してもう一眠り、

「って寝るなぁぁぁああああ!!!!何度起こせばいいんだよこの天パ!もう既に朝食を食べる時間じゃねぇんだよどっちかって言うと昼食なんだよ!」

知らぬ内に朝食の時間帯は過ぎていたらしいがまぁ良い。自分の体内時計はまだ朝だと言っているのだ。世俗に流されず自分の時間を持つ、これこそ俺のハードボイル

「何でだぁあああ!!何で今ハードボイルド!全っ然ハードボイルドじゃねぇよマダオが布団に包まってるだけだよ!ほら、いい加減起きて下さい」
「ぐへっ!」

この男は容赦なかった。俺が眠る布団をあろうことか剥ぎ取ったのだ。だが怒りはしない。ただ部屋の隅で身体を丸め、無言の抗議を

「おい、いつまでやるつもりだ。飯食わせねぇぞ」
「……そんなに怒んなくてもいいじゃん新八ィ。ちょっとした銀さんの悪ふざけじゃんほら起きるから。な?だからご飯」
「分かりましたから早く来て下さい。皆待ってるんですからね」
「は?みんな?みんなって誰だよ」

その問いに答えることなく部屋を出ていこうとした新八は去りぎわに着替えなくていいですから、とだけ言って出ていった。

「着替えなくていいってなんだよ……」

欠伸を一つ溢しながら襖を開けるとそこには、

「…妖怪?」

「妖怪ってのはあたしらのことかい?」
「セッカク来テヤッタノニソノ言イ種ハ何ダヨ!!」
「了解しました。銀時様にとってお登勢様は妖怪、」
「了解せんでいい!!」

茶を出す新八にご飯を掻き込む神楽、その向かい側に下に住む三人が座っていた。

「朝っぱらから何ですかぁ?家賃の取り立てかコノヤロー」
「……払ってくれるのかい?」
「いや、無理です」
「なら自分から話題にするんじゃないよ」

そう言って茶を啜るお登勢に首を傾げながら神楽の隣に座る。自分の前にも湯呑みが置かれた所で銀時は切り出した。

「じゃぁ何しに来たんだよ」

だがしかし目の前のお登勢は答えることなく新八や神楽と目を見合わせる。そしてため息を煙草の煙と同時に吐き出すと相変わらず無関心な奴だねぇ、とたまに向かって目配せをした。

「銀時様、これを」
「……?」

差し出されたものを素直に受け取ればそれは上質な、だが着古された渋い色合いの着物。

「誕生日プレゼントです。僕たちはお金が無かったんで帯しか買えなかったんですけど」
「銀ちゃんおめでとうヨ!!」

誕生日などすっかり忘れていた。いや、そろそろだとは思っていた。だが元々誕生日を気にする性分でもないし、最早喜ぶ年齢でもない。だから本人すら意識してない誕生日を祝われるなど思ってもいなかった。

「早く着てみてヨ!」
「お、おう…」

新八と神楽に背中を押され万年床の上に立ったところで背後で襖の閉まる音がする。着慣れない色合いの着物と新しい帯、何だか少し恥ずかしいがゆっくりと袖を通しているとまだかと催促された。普段の着くずした感じにする気にはどうしてもならなくて珍しく胸元もきっちり隠す。

「ほらよ」
「「「……………」」」

半ば笑われる覚悟で出ていったのに皆一同に無言だった。そんなに似合わないかと内心不貞腐れながら神楽を見た途端に勢いよく抱きつかれ思わず倒れこみそうになる。

「銀ちゃん格好いいアル!」
「………え?」
「凄く似合ってますよ」

新八やキャサリンまでもが驚きの混じった顔でまじまじと見てくる。未だ無言のお登勢の反応が気になってちらりと見ると目を細めて自分を見ていた。

「これはアタシの旦那の着物でね」
「……貰っちまって良かったのかよ」
「構やしないよ。あの人はたんすの肥やしになってる方が勿体ないって怒るだろうさ」
「ありがとな…」

お前らも、と二人の頭を照れ隠しにがしがしと撫でれば嬉しそうな微笑みが返ってきて何だかむず痒い。

「ほら、それじゃ下に行くよ」

帯を買うのがどれだけ大変だったか二人から苦労話を聞かされているとお登勢が玄関に向かいながらたまとキャサリンに呼び掛ける。

「あんたらも後できなよ」
「はい」
「下で何かあんのか?」
「銀ちゃんの誕生日パーティーアル」

僕たち準備頑張ったんですからね、と言われつい緩んでしまう頬を隠すのに必死でその後の言葉を聞き逃してしまった。

「姉上や真選組の皆さんに桂さん、あと長谷川さんも呼びましたから」

今年の誕生日はまだまだ騒がしい時間が続きそうだ。


end.
──────


前半ハードボイルドとか言って遊びすぎた結果、後半の失速具合が半端ない。パーティーまで書きたかったのにすみません。ちなみにヅラは変装して来ます。更に本当は貰った着物が先生が着ていた着物に似てて驚くっていう場面を盛り込むつもりがいつの間にか抜けてましたごめんなさい。

銀さん誕生日おめでとう!

2010.10.10 秋花

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