連載

□末の露、本の雫 十四章
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通りの喧騒が嘘のように路地裏はひっそりと暗い影を落としていた。時々擦れ違う浪人風の奴らも今日は相手をしている暇がない。

『無力な人間にも危険は等しく訪れる』

爆発の犯人は白夷族としか考えられない。天導衆をも掌握した白夷族が存在する今、他の天人は目立つ行動は避けたいところだろう。だとすれば。高杉の言う弱者とは一般市民のことだったのだ。天人の攻撃から身を守る術を持たず、戦う方法すら知らない。今回の爆発は白夷族にとって見せしめ程度のものだろう。

抵抗すればこうなると──

今回は規模こそ小さかったが真選組の動きを察知すれば恐らくこの規模では済まない。

「厄介な事になったな……」

真選組は江戸に住む市民全員を人質に取られたのだ。だからと言って土方は大人しくしているつもりもなかったが。
辺りに煙草の煙を撒き散らしながら色々と思案しているとその場に似付かわしくないものが目に入った。

「桂……!!」
「…子供は俺が預かっている。話があるんだろう。ついてこい」
「あ、あぁ………」

今まで追い掛けてばかりいた桂の後ろを大人しくついていくことに違和感を感じる。間近で見れば見るほど隙のない物腰、衣服で隠れてはいるが鍛えられた身体、やはり戦を生き抜いて来たと言えるだけのものが備わっていた。

桂の話によれば子供らと路地裏で出会い話していたところで爆発が起きた為、慌てて避難させたらしい。こうしてたどり着いたのは空家に見える閑散とした平屋。しかしそこに入るでもなくその裏口から更に奥へと歩は進み、人一人が漸く通れるほどの狭いそこを当たり前のように行く桂に若干の驚きを禁じ得ない。

どうりで捕まえられねぇはずだ

こんな所に潜伏しているなんて誰が思うだろう。

「こんな所にいたのかよ…」
「定期的に場所は変えている。この桂小太郎がそう易々と貴様らに捕まるわけがないだろう」

自慢気に語る桂を横目に土方は半ば朽ちかけている古ぼけた家屋を見上げた。
中は薄暗く、とても人が住んでいるとは思えない。だが奥に進めばそれなりに掃除された一画があった。

「ここからが我々の隠れ家だ」

そう言って桂は襖を勢い良く開ける。その向こうに新八と神楽がいた。

「土方さん!!」
「マヨラー!」

突然の訪問者、しかも攘夷志士の拠点であるここに土方が平然と居ることに二人は驚いていた。

「話は二人から聞いた。我々に協力してほしい、と?」
「どうやら近藤さんと総悟が決めたらしい。だが俺もゆくゆくは必要だろうと思っていた。引き受けてくれるか?」
「こんな時だ仕方あるまい。だが頻繁に隊服を着た連中がここに出入りすると困るんだが」
「情報のやり取りは変装した監察にやらせる。緊急の場合はいつでも屯所に来てもらって構わねぇ」
「分かった。それではこの子らを頼むぞ」
「あぁ……」

桂との協力を取り付けたことは大きな収穫だ。情報が不足している今これほど有難いものはない。
屯所までの道中今後の作戦を考えていた土方は後ろから己を引く力を感じ思考を打ち切って振り返った。

「あの爆発、なんだったアルか」
「僕も気になります。あれは誰の仕業だったんです?」
「………大したことねぇよ。あれはただの」
「嘘ネ!!」
「土方さん正直に話して下さい。僕たち覚悟を決めたんです。銀さんの為なら、家族の為なら危険だろうが何だろうが乗り越えてやるって」

そう言って詰め寄る二人に決意を感じ取った土方は仕方なく重い口を開いた。

「あれは恐らく白夷族の仕業だ……俺らが動いたら町をぶっ壊すっていう脅しだろう」
「そんな……」
「だからと言って白夷族の思い通りにさせはしねぇ。真選組や攘夷志士はそれで怯むような質じゃねぇよ」
「そうですね……」



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