連載

□末の露、本の雫 九章
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知らなかった、


お前の過去なんか。



知れる訳が、無かったんだ──






末の露、本の雫 九章



はぁ、と桂は一つため息をついた。昔の思い出はどれも銀時にとって辛い過去でしかなかった。笑ったことなんて皆無に等しかったし、戦争中などはお互い気がおかしくなる程の血に塗れ、談笑するような雰囲気でもなかった。
笑った顔なら何度も見たことがある。だがそれはどれも作り物の笑みにしか見えなかった。
回りの奴らは気付いていなかっただろうが桂や高杉、坂本は銀時の笑みが本心ではないとわかっていた。そして知りながらも何も出来ない自分を酷く恨んだ。

それでも銀時は優しかったし、誰よりも強かった。白夜叉と呼ばれ見方さえも近づかない恐れられた存在。苦戦を強いられていた自分たちにとって絶対的な強さを誇る銀時は欠かすことの出来ない重要な最終兵器でもあったのだ。

元々あの髪と眼のせいで敬遠されることは多かった。銀時自身も己の容姿を恨んだことだろう。それが最近になって漸く家族を見つけることが出来た。

家族のぬくもりを知らなかった銀時が少しずつ心から笑えるようになった。笑顔を引き出したのが自分でないことは悔しいがそれでもいいと思った。

なのに───…

「白夷族……」

銀時に流れる血は全てを壊そうとしている。必死に人として生きようとしてきた銀時を嘲笑うかのように。

「くそっ……」


桂は拳を血が滲むほど強く握りしめると畳を力の限り殴った。



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