頂き物

□人間証明
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「銀時、」


体を重ねて、繋げて、土方は熱に浮かされたような声で俺を呼ぶ。


「土、方、」


俺もそれに答えて呼び返す。
それに満足したのか、ニヤリと口角をあげて、快楽を求める獣の笑みを浮かべる。
そして土方はグッと腰を進めて俺に欲をぶつけてきた。
衝撃と快楽に堪える俺の唇に土方が深く口づけ。気づけば、己の指に絡まる土方の指。


手を組むなどまるで人間のようだと、白くなっていく頭の隅っこでぼんやりと考えた。



江戸に流れたのは10年前。
人として墜ちて落ちて堕ちて、ぼろ雑巾のような俺がまたこんな風に、人として生きていけるだなんて考えてもなかったのに。


二度と持つことなどするかと思っていた仲間がいつの間にか出来ていた。
大切だと心から言うことが出来るたったひとりの人が出来ていた。
捨てたと思っていた居場所なんてものが出来ていた。


それを大事だと思う心
それを失うことを恐れる心




そんな、感情を再び抱けるなんて考えることも出来なかった



「銀時、」

耳元で再び熱い声。


「出す、ぞ」
「ん…」


目を瞑ると弾き出された熱に、意識が飛んで白に染まった。





満たされた心。
それを得る為に少しばかり腰の痛みは我慢しておく。
いや、めっちゃ痛いんだけどね。
一夜過ぎても頭はフワフワと地についた心地がせず、体はとてつもなくだるい。
どうせ仕事なんてない。故にやることなんてひとつもない。
暇を持て余そうとイチゴ牛乳を飲み、体をソファに投げ出して心身を休める。


「銀さんまた寝る気ですかっ!」


自分に姑のごとく説教する声がするが、所詮は新八。無視しても害は無い。
ちょうどいいBGMとして俺は意識を沈ませていった。





目を開けると随分と万事屋の中は静かだった。いつもの新八の小うるさい説教も、神楽の騒ぐ声もない。外から聞こえる筈の雑音もひとつとして見つからない。


ただ、静かだった。



「………。」
久々の静けさのせいか何なのかは分からないが、胸騒ぎがする。
ザワ、ザワザワと、押し寄せる波のように。途切れること無く。異世界のような音で。現世の音で。


なぜか、今座っている場所に居てはいけないと俺は飛び起きた。そして、傍らの木刀を手にして外に出る。


街頭には人が溢れていた。
外の空気はやけに冷たく、人が持つはずの音は、温もりはかき消されてしまっていた。



あぁ、知ってるじゃないか。
ザワザワと騒ぐ心音の先を。
この外と自分を隔てる空気を。
ずっと昔に経験をしていたじゃないか。




これは、自分に向けられた


殺 気 だ。
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