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□左手薬指
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『松本さん』
「ん?」
『もう……時間ですよ』
「…そっか」
『気をつけて、くださいね』
「大丈夫だよ」
『忘れ物とかないですか?』
「うん、ちゃんと全部ある」
『それじゃあ、さようなら』
「うん、時間できたら連絡するから またね」
手を振り返すことはできなかった
目を見ることもできなかった
声を出すこともできなかった
ただ今できる最高の笑顔であなたを見送るくらいしか、できなかった
あなたのその左手の薬指に輝く、たった一つしかない
2人の永遠の愛の証が
私には凶器だった
『あな、は知って、すか、…っ、ふ……』
それでも 左手薬指 に心が「またね」を求めてしまう
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