A DREAM IN A DAYDREAM

□墮天使の誕生日
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「行ってらっしゃい」と見送れば、その日の内に兄ちゃんは帰って来る。いつの間にかそう信じていたから、あの日から兄ちゃんを信じられなくなった。

来る日も来る日も兄ちゃんを探した。その様が不審だったのだろう、ある時、老夫婦があたしを引き取ってくれた。
おじいちゃんもおばあちゃんも、あたしをとても可愛がってくれた。だから自然とあたしもその優しさが伝染って、いつしか周りから「天使」と呼ばれるようになった。

デュエルマスターズと出会ったのもこの頃だった。近所の子供たちが遊んでいるのを見ていたら、「シアンも遊ぼう?」と誘われた。「シアンは天使だから、光が合いそうだね」子供たちに言われ、あたしの光中心のデッキが完成した。初めは負けてばかりだった。それでも数をこなしていく内に、あたしは強くなっていった。近所の子供たちもあたしに適わないくらいに。

そんな幸せな時も長くはなかった。

ある日突然、おじいちゃんが死んだ。優しくて、どんな時にもあたしの味方だったおじいちゃん。あたしは一日中泣いていた。

ようやくおじいちゃんの死を乗り越えられた頃、後を追うようにおばあちゃんも死んだ。もうあたしはどうしようもなかった。そんな時、あの近所の子供たちはあたしをなんとか励まそうと、何度か決闘してくれた。でも、悲しみという感情しか残っていないあたしに、もうあの光デッキは使えなかった。だから、あたしはデッキに闇のカードを入れてみた。そのデッキで決闘すると、その途中、あたしの意識が無くなった。
気がつくと、あたしの目の前には恐怖心が顔にうかんだ、あの子供たちがいた。「どうしたの?」と尋ねても、誰も答えてくれない。それどころか、「シアン、おばあさんが死んでから変わったね。決闘の時にあんな恐い表情をするなんて。」という。
あたしは驚きで何も言えなかった。でも、今まで周りの人に怒った表情とか、恐怖に怯えた表情とかしたことがあったか思い出した。…一度も、と言って良いほどなかった。

その時、あたしは今までの怒りや恐怖を溜めるに溜めたから、まるで二重人格のようなもう片方のあたしができてしまったのだ、と思った。

そんなあたしを、誰かが天使の羽根を折られた、「墮天使」と呼んだ。
<完>
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