■他ジャンル小説

□ドライヤー
1ページ/1ページ

エジプトへの旅を始めてからもう何日になるだろう…。

 最初からジョセフさんと承太郎と一緒に旅をしてきた僕は大抵、ホテルで泊まったりするときは承太郎と一緒の部屋だった。

 そして、ポルナレフが仲間に加わった今でも承太郎と一緒の部屋になる確率は高く、今回も承太郎と一緒の部屋に泊まることになった。





「くっ…。」

 右腕に激痛が走る。今日の敵スタンドとの戦いで負傷した右腕は少し動かすだけで体中に電気が走ったかと思うほど痛い。

 気温が高い地域に入ったため、ホテルに泊まるときは必ずシャワーを浴びなければ自分の汗と埃ですぐに汚れてしまう。そんなのは耐えられない…、例え怪我をしていてもシャワーだけは浴びたいという一心で僕は今バスルームにいる。

 左腕だけでどうにか洗えそうだと、傷口が水で濡れないようにとビニールでカバーしてある右腕をホッと見つめる。そして、右腕を動かさないように左手で蛇口を回してシャワーからお湯を出す。

両腕を一切使わずに髪をぬらす。顔にも水しぶきがたくさんかかるので目をつぶった。

 

 瞼の裏に承太郎の顔が浮かび上がる。

 承太郎に助けてもらって何日たっただろう…、その日数が僕の片思いの時間…。

 DIOに肉の芽を入れられて操られていた僕を命がけで助けてくれた…、自分でも単純で乙女チックだとは思うが…。

 だが、この気持ちは承太郎に気づかれてはならない。

 ホモを承太郎が受け入れるとは思わない…。軽蔑されるくらいなら友達のままで十分だ…。





 なんとか、シャワーを浴び終えてバスローブを着る。

 いつもはパジャマを着ているのだが、右腕が動かせない以上少しでも簡単なものを着たい。

 タオルで髪を拭きながらバスルームから出ると承太郎が本を読んでいた。

 珍しいな…。と考えて承太郎は読書が好きなのだろうか?と知りたくなった。

「承太郎。」

 名前を呼ぶと、承太郎は僕の方を見る。

「花京院…。俺の番か?」

 一瞬、何のことだろうと考え、すぐにシャワーのことだと思い当たる。

「あ、ああ。遅くなってすまない。君も入ってくるといいよ。」

「そうするかな。」

 承太郎は一人用のソファーから立ち上がり、バスルームへと歩き出す。

 僕は鏡台に置いてあるドライヤーを見つけ、髪を乾かすために鏡台の前の椅子に座る。

 

 承太郎が僕の後ろを通り過ぎ、バスルームへ入っていくのを鏡で見た。左手でドライヤーをつかむ。

 スイッチを入れて髪を乾かし始めるが、片腕ではぎこちない。もどかしくなって、つい右腕を使おうとして無意識で動かす。

「――――っ!!!」

 声にならないほどの痛みが右腕から走り、顔をしかめる。

 顔を上げて鏡を見ると、もうとっくにバスルームに入っているはずの承太郎が僕の後ろに立っていた。

「うわっ…、どうしたんだい?驚かさないでくれよ…。」

 僕は振り向いて承太郎を見上げて言う。承太郎は僕ではなく、僕が左手で持っているドライヤーを見つめていた。

「ふぅ…。やれやれだぜ。」

 口癖なのだろうか、聞きなれたフレーズを承太郎は言う。僕がポカンと不思議そうに承太郎を見ていると承太郎はそっと僕の手からドライヤーを奪った。

 意味が分からず、ただ承太郎を鏡越しに見ていた。

 承太郎はカチッとドライヤーの電源を入れる。ブオオオとドライヤーの風の音が聞こえる。

 おもむろに承太郎は僕の髪を乾かし始める。

 一気に心拍数が上がって、体温が急上昇するのが分かった。

 承太郎は僕が髪を乾かすのに苦戦しているのを見ていたんだ…。それで…。

 嬉しさと恥ずかしさで僕はいっぱいいっぱいだった。そして、もしかして僕は一生の運をここで使い果たしてしまったのかと思うほど幸せだった。

 

「承太郎…。」

 名前を呼んでも承太郎は何も応えない。承太郎の沈黙は僕に言葉の先をうなが促しているのだと悟る。僕はそのまま続ける。

「ありがとう…。優しいな、君は。」

 つい顔がほころぶ。

 少し間を空けて承太郎はもう一度口癖のようなあの言葉を言う。

「…やれやれだぜ。」

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ