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「困ったな・・・。」
山積みの仕事を投げ出して息抜きと言う名のサボりをしてしまった罰か、天からはしとしとと秋雨が降り注いでいる。
さっきまでは秋の涼しい日和をやってきたというのに、カフェで身体を温めたあとのこの雨は何とも憎いものだ。
雨でも降ればやっぱり冬に近づいている証拠なのか、冷たい北風が頬をかすめる。マフラーでも巻いてくればよかったと今更後悔しても遅いわけで、再びカフェの中へ入ることも躊躇ってしまい仕方がなく入り口の小さなスペースで雨が止むのを今か今かと待つばかり。
「雨なんて天気予報で言ってなかったよ。」
昨日の夜に見た天気予報なんて当てにならないなと八つ当たりをしてみたり。
このまま雨の中を駆け抜けて行く勇気も出ず、目の前を色とりどりの傘が過ぎ去っていくのを羨ましく眺めていた。
「何やってんだ?こんなとこで、」
ドキリと波打った鼓動。
声の方を振り向けばベージュ色の傘にポケットへ突っ込んだ左腕には買い物袋をぶら下げたシカマルの姿。この様子だとヨシノおばさんにお使いを頼まれたんだと見て分かる。
「雨宿り。」
「へえ、こりゃまた災難だな。」
「シカマルこそお使い頼まれたんでしょ?」
「自主的にやってんだよ、これは。」
バレバレの嘘を吐きながら傘を閉じ、なぜか私の隣に並んできた。壁に背を預け灰色の空を見上げるシカマルの横顔ですら私のボルテージを上げるのには十分なもので、不意に目が合えば自分の熱で感電しそうになる。
「さみーな。」
「うん、」
目を合わせたまま話し掛けられればまともな返事が出来ず自分から顔をそらしてしまう。ふぁっと大口を開けて欠伸をするシカマルはいつもの見慣れた光景のはずなのに自然と見せるその表情もまた好きだと横目で眺める。
「傘、持ってねーのかよ。」
「うん、家を出てきたときは雨降ってなかったし。」
馬鹿だな、と口端を上げ笑うその意地悪な顔も何故かかっこよく見えてしまう。うるさい、としか反論が出来ない私をチラリと見るその表情は何かを考えているような顔で、でも私にはその考えが分からなくていつもやられたと後に思うことになる。
「じゃ、めんどくせーが俺はそろそろ帰るぜ。かあちゃんがうるせーからな。」
私が返事を返す間もなく走り去るシカマルの背中を見送った。
さて、私はこれからどうしようかと降り止まない雨を眺めふとシカマルがさっきまどいた隣に目を向けるとそこにはベージュ色をした見覚えのある傘、
そういえば確かシカマルはここを離れるとき傘を差していなかった。
「ありがたく使っておきますか。」
そんなシカマルのさり気なくする優しさは私の心を射抜く。
あなたにとっては当たり前のことかもしれないけど、私には死ぬほどの幸せ、
私の思い知らずに君は。
(確信犯なのかもしれない)
(そんな甘い期待をしてもいいですか?)
fin
Honey Lovesong様お題提供 PC観覧
幸せな恋のお題
05 私の思い知らずに君は。
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