【B】夢小説

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「なぁ、流石にあそこで待ったはないと思うんだわ」
「無くない、全然ある」
「そりゃ、有り得るだろうけど」
「わかってるなら、その、嫌なわけじゃないからもう少し、待って」
「大分待ってる方だと思うけどな」
「むぅ…大体そんなことしてる場合じゃないと思うけど」
「二人ともどうかしたの?」
「ううん、なんでもない、おはようジュード君」


集合場所の広場に向かうなり、アルヴィンと名無しがなにやら口論をしているのが目につき、ジュードが声をかけてきた。
なんでもないと答える名無しとは対象的にアルヴィンは何かあるような口ぶりでなんでもないとジュードに返事をした。
喧嘩をしていた、という雰囲気ではないがなんともいえない空気に割入ってしまった感が否めずジュードは思わず苦笑いをした。
そんな空気を流すかのように、次々とメンバーが集まってきた。
全員が揃うと、ジュードが皆はどうしたいのか、と意見を再確認すると、全員口を揃えジュードに協力する道を答えた。
ジュードがガイアスから受け取ったという刀を取りだし、ガイアスが最後まで争わない手段を残している事を示した。
しかし、それぞれの目指すべき未来と抱いた信念が違う今、争わないことなど不可能だろう。
相手が相手なだけに、必要とあらばこちらの命など本気で奪いに掛かってくることは容易に想像できた。
戦うことに恐怖心がないと言えば嘘になるだろう。
だが、やらねばならない時だという覚悟は皆既に固めていた。その決意を胸に一行は次元の裂けた丘へと向かった。


「心なしか小さくなってる?」
「ジュード、頼んだぞ」
「うん」


ジュードが剣を振ると、小さくなっていた次元の裂け目が人が入れる大きさにまで広がった。
どこに繋がっているのか全くわからない空間がそこには広がっていた。
目の前の光景に飛び込むのを少し躊躇っていると、先陣を切ってレイアが元気よく裂け目へ飛び込んだ。
レイアに続いてアルヴィン、エリーゼが裂け目へと飛び込む。
一足出遅れてしまった名無しも飛び込もうとしたが、裂け目まで距離があったため、飛び込むのを躊躇をしてしまう。
すると、ローエンが名無しの横にきて手を差し出してきた。


「よろしければエスコートいたしますよ、お嬢さん」
「それじゃあ、よろしくおねがいします」
「しっかりお掴まりください、行きますよ」
「お、落とさないでくださいね!」
「お任せください」


ローエンに掴まり名無しも中に入るとそこには、幻想的という言葉が果たして適切なのかは定かではないが、リーゼ・マクシアでもエレンピオスでも空間が一同迎えた。
周囲を見渡していると、先に飛び込んだ三人の姿があったがレイアの姿だけがそこにはなかった。
後から入ってきたミラがここは世精ノ途という場所だと説明をする。
だが、以前にミラ達が来たときとは構造が変わっているらしく恐らくマクスウェルの仕業だろうとミラが付け加えた。
すると、独走していたレイアが奥から戻ってきて何かを見つけたようだった。


「ねぇ皆、あっちの方からリーゼ・マクシアに繋がってたよ」
「行ってきたの?!」
「うん、ちゃんとこっちに繋がってるみたい」
「繋がってるみたいって…戻ってこれなかったらどうするつもりだったんだよ」
「もう、ジュードうるさーい、いいじゃん結果オーライなんだから」
「て、ことは本当にリーゼ・マクシアに戻る手段があるってことね、むぅ…なんかガイアス王に試されてるみたいで不快…」
「おまえホントに苦手なんだな、ガイアスのこと」
「苦手っていうか、腹立つっていうか」
「はっきりしねぇのな」
「なんか、あのままじゃ独りに成りかねないんじゃないかしらって思って、開き直ってるのか、あの無駄な自信が腹立つっていうか」

名無しの言葉を聞いたアルヴィンが無意識に眉間にシワを寄せ、少しきつい口調で名無しに話し掛けた。

「他人の世話は大概にしとけよ」
「うん、気を付けるけど、どうかしたの?」
「どうもしてねえよ」
「…?変なの」


歯切れ悪くアルヴィンとの話を終えると、ミラとジュードがなにか話し合っていたらしく、全員に向けてなにかやり残したことがあればリーゼ・マクシアに向かっても構わないと言った。
皆やり残したことも、気になることも山ほどあるだろう。しかし目の前のことをどうにかするのが何よりも最優先だと前に進むことを選択した。


「本当にいいのか?」
「うん、だってガイアスに勝っちゃえばそんなの関係ないもん」
「レイアたまには良いこと言うー」
「たまにってなによー!」
「ドロッセルには会いたいですけど…私、戦います」
「ええ、決めねばならない時ですから、爺に残された時間は貴重なのです」
「満場一致でいいんじゃねーの?」
「行こう、ミラ」


皆の意思を再度確認すると、全員で奥へと進んでいった。
空間内はどうやら精霊の力で作られた場所らしく、あちこちを通るのにそれぞれ該当するマナを反応させて進まねばらないようだった。
一見足場が浮いており道がないようにみえたりもするが、仕掛けをといて順調に進んでいった。
進行する際に、精霊のような魔物はいたもののガイアスが用意したような敵兵の姿は誰一人として見あたらなかった。
来るならば堂々と迎え入れるという意思の表明なのだろう。
緊張の中奥へと進むと、奥にはウィンガルが待ち受けていた。
他の四象刃の姿がないことに名無しは一瞬疑問に思ったが、皆から聞いていた話を思い出し、彼が最後の一人なのだということを認識したが、今は胸を痛めている場合ではないと思い直す。
ウィンガルはジュード達がガイアスの重荷になるといい、剣を向けた。
話し合う余地は既に無く、ガイアスの理想のために彼は全力で挑んできた。


「人数的には有利のはずなんだけどね」
「そうとも限らんぞ名無し、奴は強い」
「(おまえ達を先になど行かせん!)」
「何言ってるかわからないぞー!」
「でも、必死なのは伝わってきます」
「こっちも本気で答えなきゃこの先進めないぜ」


かつて四人で小隊を消滅させたといわれている、彼の実力はやはり確かであった。
こちらの人数がいることを逆手にとり、味方同士の攻撃範囲内に上手いこと引き入れている。
間合いをとるのが難しく、こちらも下手に攻撃の手が出ずに苦戦を強いられた。
後援に当たろうとエリーゼが下がり、さらにその援護に名無しがあたる。
苦戦をしつつも、ミラがウィンガルの剣を弾くとジュードがその隙をついて懐へとダメージをいれた。
勝負は確実についたが、それでもウィンガルは立ち上がった。
すると、増霊極の影響を受けながらも ウィンガルは力を振り絞りジュード達のいる足場に剣を突き立て、足場を崩し全員を世精ノ途の底に落とした。
ウィンガルに足場を崩されたが、幸いにも全員足場を失うことはなかった。
だが、それぞれがバラバラの足場に落ちてしまい今ここで全員が一ヶ所に集まるのは無理な状況となっていた。


「登れそうにはないな」
「どうするんですか?」
「けど、立ち止まるわけにはいかないんだ、皆ガイアスのところで会おう」
「誰が一番乗りになるか競争だね」
「ああ、皆この先で合流するぞ」
「それでは、話す時間は惜しいですね」
「どうやっていけばガイアス王のとこにつくかしら」


名無しが最後にポツリというと、ミラがそんなものは簡単だと笑顔を向けた。
ミラの表情を見た全員が、その答えを直ぐに理解し、自然と全員が口を揃え て同じ言葉を発した。


「とにかくまっすぐ!」


その言葉を合図に全員が前へと進んでいった。
名無しは落ちた足場の関係で同行者がいないため、一人での行動となった。
皆たどり着くゴールは同じなのだから、と思うと一人で進むことに恐怖心は全く生まれなかった。
名無しはまっすぐ進んだ先に仲間がいると信じ、ただひたすら目の前の道を走った。
精霊の作り出した世界ならば、ウルがなにかわかるかもしれないと名無しはウルを呼び出した。


「ウル、進む方向ってわかる?」
「いえ、この世界自体私が来るのははじめてなので御役に立つことは」
「んー…それならしかたないわね」
「ですがマスター」
「ん?」
「強くマナを感じる部分が僅かに感じ取れます、そちらに進んでみても?」
「進まない理由がないわね、お願いするわ」


以前、皆がマクスウェルと戦ったときに名無しはその場にはいれなかったことが今でも悔しいと思っていた。
だからこそ、この戦いでどんな形でもいいから皆の役に立ちたいと名無しは強く思っていた。
おそらくウルのいう場所が到着地点なのは間違いない。
せめて誰かの道案内になれればと、名無しは通る道に印をつけて進んでいった。
自分が迷ってしまった場合にも、それが印となるように。
この行為はもしかしたら、役に立たないかもしれない、意味がないかもしれない。


「それでも何かやらなきゃ…私だって仲間だもの…」


名無しの漏れた言葉に、大丈夫だとウルが答えた。
ウルの言葉に背中を押されて、名無しは前へ進むことを続けた。
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