雲は天に座す

□転校生は若葉と共に
1ページ/3ページ

沈む、沈む。
重力にしたがって落ちていく。
そう、これはミーにとって至福の時―まあ要はただのだらけモード。
でもこういうのって大事じゃないですか。
下着一枚でさらさらの毛布に包まれるのとか寝転がりながらポチポチゲームするのが最近のお気に入り。
素晴らしすぎて思わす間人類讃歌に走ってしまいそうですとも。
単に複雑に絡み合ってドロドロに溶けてるだけじゃないってことを知らなかったのが恥ずかしいくてたまらない。

とはいえ明日からはある任務が待ち受けているからきちんとしなくちゃ。
どうせならもう一回確認しておこっか。
大事だよねこういうのね。
適当に放置されてたファイルを手に取り、雑な字で書かれたやることリストに目を通す。
並盛中学校に転入して『沢田綱吉』及び『沢田綱重』の監視と評定が第一。
晴のアルコバレーノ『リボーン』の企みを探るのが第二。
選定されるであろう守護者の並びに戦力の計測が第三。
やっぱり第二項以外は無意味になりそうな気がする。
いや仕事はきっちりこなすよ?そうしないとフランとの連絡手段がなくなっちゃうもん。
しかしこの任務、大きな問題があるのです。
赤丸で囲まれ、同色の字で注釈された写真が問題の人物。
墨汁のように黒い髪にカッターナイフかってくらい鋭い目。
鷹取みたいな名前かと思わせといて雲雀です。
こんなやつが雀よりちっちゃくて可愛らしいまん丸お目目の鳥と一緒とか名前詐欺にもほどがあるんじゃないの?
で、雲雀とかいう人間が強くて厳しくて面倒くさいのだそう。
実際この街を散策してるときに何度か見かけたけれど情報源が伝えたいことはなんとなくわかった。
一般人はおろかお遊びみたいなケンカしかしてない人間は勝てない雰囲気だったよあれ。
周囲より空気が1℃下がってるもん。
そしてこの雲雀、なにやら私が通う並盛中学校の風紀委員長だとか。
―まあ、ミーの伝えたいことがわかってくれたはず。
これ1000%死ぬよねってこと。
あのリボーンの腹の内を探るだけでも大変なのに加えて厳しくて強い風紀委員長ですって?
神はミーを呪いた…いや、元々呪われてるからそういうことなんですねー。
もう神様なんてくそくらえですー。
―とにもかくにもこの潜入任務、正直報酬に見合わないレベルだなって受けた後に感じたんですよね。
"顔が割れてないし中学生でもあまり違和感がないカインが最適"とか言ってたけど確実に嘘だ。
確かに他も他で任務を抱えてるし問題外なヤツも多いけど私を中1って言い張るのはやや無理があるでしょ。
作戦隊長直々のご指名でこんなに嬉しくないことはもうないんじゃないかな…。

それにもうひとつ最悪なことがある。
なんとミーの制服が完成していないのです。
下調べとか手続きとかしてたら申請が遅れて、なおかつ物が多いため時間がかかるというダブルパンチ。
体力ゲージはもうすっからかんなのでオーバーキルしないでくださいませんか?
一人だけ私服で登校とか目立つ。
それと情報源いわく彼の本拠地は並盛中学校だとか。
これらはイコールで雲雀と対峙しなきゃいけない事実に繋がる。
ひ弱な女子を装ってそこそこの位置で観察するミーの計画は秒で崩れるわけですねわかります。
そもそもミーが持ってる服はグラサンカマーが勝手に買ってきたものばかり。
要はひらひらしてる可愛くて派手なものばっかりってこと。
いくらミーがフランス人形に勝てるほど顔がいいとしてもフリルが重厚なものに偏るのはダメでしょ。
だいたい可愛いし間違いなく似合うから着てるけど浮くんだよね。
でもまあ結局ポチるのすら面倒だし着回す分以上にあるからいいやってなってるミーの怠慢が悪いって言われたらそれまでだけど。
うん、話がすごい逸れた。
まあミーならなんとかなるなる。
どうせ痛いだけで死なないし問題ないですよねー。
「平気平気、なんてったってお姉ちゃんですからねー」
声に出すとなんだかいける気がしてきた。
ここで折れでもしたら弟に顔向けできないからね。
こういう時のお姉ちゃんって強いのです。

時刻は10時。
いつもならここからが本番だけど、これからは昼の活動がメインになるんだからしっかり切り換えておかないと。
これでもプロですから全然余裕でできちゃうんですよ。
―ゲームの電源を落とし、だるだるモードの体を起こしてベットに向かわせる。
それから想定しうる限りで最高のスタートを切れるようにアラームをセットし、布団の隙間に潜り込んだ。
目を閉じて、やがて意識の糸が切れるまで身を委ねる。
ああ、心地よくゆっくりと、沈んでいく―。
次へ
前の章へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ