私は彼をわんちゃんと呼ぶ

□9.新しい後輩
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わんちゃんや真希ちゃんとの交流をそのままにしていたら一年生、わんちゃん達のクラス(と言っても二人と一体だが)、に転校生が来たとわんちゃん経由で耳にし、授業を終えてから顔を見せれば物凄く呪われた男の子がいて、その男の子の名を教えてもらった。


「お……乙骨憂太です……」


一目で私とは別の一般人であったことはその目でよく分かり


「わたし初音」


と自己紹介していれば頭を擦りながらわんちゃんたちも近寄ってきて「こいつ呪われてんだぜ」と真希ちゃんが口にした。しかも相当どえらいのに。それでも憂太君は平気そうなのでまあいいだろう、どっちにしても私には関係ない。呪術も術式も効かないのだから。

そうしてすぐ憂太君が真希ちゃんと小学校に発生した呪いを祓いに行くと耳にしちょっとだけ大丈夫かなぁと思いながら授業を受けーーーないで教室のある棟から離れたヤニスポットでサボって煙草をふかしていれば遠くで車の音がし校門まで顔を見せた。
そうすればちょうどチャイムが鳴り悟が私を見つけ手を振ってきたのでそれに答えるように歩み寄っていく。

車からは真希ちゃんと憂太君が降りてきて、どことなく雰囲気の変わったような憂太君に笑いかけた。


「良いことあった?」


そう尋ねれば憂太君は笑ってくれて、なんでも呪術高専でまずやるべき事を決めることができたと教えてくれた。
良いことだと思う。
何をするかは知らないけど。
そして包帯を巻いた真希ちゃんの手に触れれば車から降りてきた瞬間よりかは顔の明るさを取り戻し


「初音まじ癒し」


なんて言われてしまった。私が癒しに当てはまるわけないだろう、そんな私たちを見た悟はニンマリと口を弓形にして


「初音の術式が反転術式に近い所もあるから」


真希の傷を癒せたんだろう、なんて。出来ることならもっとちゃんと話してほしい。飛び飛びの話しは私にはちょっと大変で、悟の心の内を見ながら真希ちゃんに手を引かれ女子寮に戻ろうとすれば背後から


「こんぶ!」


なんて聞こえてきた。


「どうした棘」


そう真希ちゃんは振り返り、わんちゃんは私と手を繋いでいる真希ちゃんの手を見つめてくるとポテポテと歩み寄ってきてもう片方の私の手を握りしめてきた。

真希ちゃんも尋ねていたが今度は私も「どうしたの」と問いかければわんちゃんはちょっとだけ眉を寄せると

「おかか!」

と言いながら手を引いてきた。真希ちゃんは手を離す様子もないしわんちゃんもどこかしら手を離す様子もない。

可愛い後輩の無言のやり取りを見てから私はそっと息を吸い

「えいっ!」

と両方の手を振り払った。


「何だかよく分かんないけど喧嘩はするな」


そう言い据えれば真希ちゃんは口端を吊り上げわんちゃんは鼻の付け根をくしゃくしゃにして不機嫌そうだ。どうして。

そのまま真希ちゃんは「ふっ」と笑うと階段を上がって行ってしまい私は窓から差し込む太陽の光を浴びながらわんちゃんと廊下に立ち尽くしてしまう。


「わんちゃんどうしたの?」
「……手……」
「手?」


振り払われた、と呟いたそれにそんなことで傷付くなよと言いたくなるがその言葉を飲み込んでから私は両手を差し出した。


「ほら」
「!おくら!!」


おくら?と疑問に思いつつ差し出した両手をわんちゃんは両手で握りしめてきて、どこかしら嬉しそうに目を細めぶんぶんと振ってくる。

そうしてわんちゃんの好きにさせていればわんちゃんの背後から憂太君が姿を見せ私とわんちゃんとそして手を繋げているというか握りしめあっているのか、形容しがたいその体勢に戸惑っている。
なのでと私は片手をスルリと離すと憂太君に差し出したのだが目に見えて憂太君に憑いている呪いの呪力がわき上がったのでその手を引っ込めた。


「すいません…」


そんなすまなさそうな落ち込んだ声に笑ってしまい、触れはしないがジェスチャーで憂太君の肩を叩く真似をし、わんちゃんもまた私と同じように「いくら〜」と言いながらほんわりと笑いかけた。


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