七年ぶりの初めまして

□6.ポアロと挨拶
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とある日、午前中は道場に張り付いていた休憩中の私に母から差出人不明の封筒を渡された。

「奈々ちゃん、この差出人に覚えはある?」
「はい?私に?」

タオルで汗を拭きながら封筒を受け取り後ろにはただ「0」と書かれているだけで

「ゼロ…れい……あ」

そう呟きハッとして思い浮かんだのは零の名前。

「差出人分かった、大丈夫、知り合い」
「そう?良かった」

そう母は笑って道場から出ていき奈々は座り直すと封を開け中に入っている手紙を取り出せばそこには安室透の名前と携帯の連絡先だけが書いてありふふっと笑ってしまった。
時計を見上げれば12時を示しており、門下生たちに午前中の練習はここで終わりです、しっかりと休むように、と声をかけ皆と供に道場から出ると私はそのまま自室へ向かい着替えを持ちシャワーを浴びて髪を整えると父と母に

「少し出てくけど、帰りは何時か分からないから」

行ってきますと車に乗って家を後にした。
電車でもいいけどあの密度はあまり好きではないしドライブという気持ちで動けばあっという間だし駐車場を見つけるとそこに車を置きポアロへと足を動かした。

涼やかな鈴の音と供に来店すればいらっしゃいませ!と。そして「西澤さん!」と声をかけてきた梓さんの声に笑みを浮かべるとカウンターへと腰掛けた。

「西澤さん酷いですよぉ〜!私に全然お礼させてくれないなんて!私これでも義理堅いんですよ?あの日もスルッと帰ってしまいましたし!」

そんな言葉に紅茶とガトーショコラ奢ってくれたじゃないですかと口にすれば「あれだけな訳ないじゃないですか!」もう西澤さん、今日も来てくれたんですから全部私の奢りですからね?

「という訳でメニューです!」

そう矢継ぎ早にまくし立てられてしまえば苦笑しか浮かばず、梓さんはまだ何か私と話したそうにしていたが賑やかな昼時である。梓さんは行ってしまい「奈々さん」そう声をかけられメニューから顔を上げ声の主を見れば安室さんであり。

「あー…安室さん、こんにちは」
「こんにちは」

安室さんはニッコリと笑いながら私を見つめ私は鞄から名刺を差し出し安室さんに受け取ってもらった。これが今日の、さっきできたポアロへの用事。
安室さんは名刺をポケットにしまいこみ登録しておきますねと笑顔を一つ。

「メニューはお決まりですか?因みにオススメはハムサンドです」
「へぇ…じゃあオムライスで」
「…僕の話し聞いてました…?」
「え?ハムサンドでしょ?」

でもオムライスと続ければ安室さんは眉を落とし「ハムサンドですね」と笑い、この忙しい中、時間を裂くのも勿体無いので仕方無しにハムサンドにしてしまった。
そんな私と安室さんを見ていたらしい梓さんが頬を膨らませながら「私だって西澤さんと話したいんですけど!」と言ってきて、紅茶を淹れてもらいすぐポアロオススメのハムサンドですとお皿を置かれた。

少しだけオムライスに心を馳せていたがハムサンドを口にして驚いてしまう。すっごい美味しいんだけど!

「どうです?」
「オススメ凄い」

語彙力がない感想に安室さんは満足したようで他の客への対応にまわり、梓さんももう少しで落ち着くと思うのでゆっくりしてください〜 !と声をかけられた。
なので苦笑しつつ頷いてハムサンドを食べきると紅茶で口の中をさっぱりとさせた。

そうしていればピークは過ぎていったようで2杯目の紅茶を飲みながらのんびりしていれば不意に「あれ?」なんて聞こえてきて「西澤先生ですか?」と声をかけられた。
その声に振り返ればそこにいたのは毛利蘭であり「先生?」なんて幼い声も聞こえてきた。毛利さんの後ろにいるのは大きな眼鏡をかけた小学生くらいの男の子であり

「蘭さん、コナン君、いらっしゃいませ」

と安室さんが声をかけた。

毛利さんは私を見つめてくると嬉しそうに笑い「ご一緒してもいいですか?」と。なので私は頷きコナンと呼ばれた少年が毛利さんを見上げ私を見つめもしかして、と。

「この前蘭姉ちゃんが話してた人?」

と首をかしげ毛利さんがそれに頷いて

「西澤流の師範代さんよ!」

と笑顔を浮かべた。
この人がと呟いた少年に初めましてと自己紹介をすれば眼鏡の少年、江戸川コナンとやらはニッコリと笑うと「本当に師範代なんですか?」なんて問いかけられてしまった。
まあ見た目の事だろう。
苦笑しつつも長い間説き伏せて成人してからやっと好きにさせてもらったんだ、勿論、道場最優先だけど、

「取り敢えず座りなよ二人とも」

その私の言葉に毛利さんとコナン君はテーブル席に座ろうとしコナン君に着物の袖を引かれてしまい

「奈々お姉さんともっとお話ししたいなぁ、ダメ?」

そう首をかしげられてしまえば仕方無しと動き毛利さんの前に座らせてもらった。

私の前に置いてあったグラスを毛利さんたちのテーブルに持ってきてもらいコナン君はありがとうと言いながらチラリと安室さんを見ており私が首をかしげてしまう。
何かあったのだろうか、まあ、何でもいいけど私は毛利さんを見やると「空手楽しい?」と問いかければ「はい!」という元気な声をもらいコナン君が「お姉さんって何歳なの?」なんて聞かれてしまったので「もう若くないよ、29歳」来年にはアラサー、笑えないと答えればコナン君は安室さんと同い年なんだぁと呟き私はへぇと頷いておいた。他人のふり他人のふり。
そんな私たちに安室さんは笑いかけ

「本当に、早いですね」

なんて答えて笑い合い毛利さんはメニューに視線を落とすと安室さんはキッチンに戻っていき、そんな安室さんの背中を鋭い目付きで見つめているコナン君に安室さん何やらかした?と思うばかりで3杯目の紅茶に口をつけた。


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