七年ぶりの初めまして

□5.朝の出来事
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朝の5時、私は道場の門下生と供に朝の走り込みを行っている。日々の積み重ねが次へと続いていくと思っているので雨や雪など危険な日がない限り絶対に欠かせない日課。
髪を纏め上げ胴着で走り始めた私の後を追うように走る門下生をチラリと振り返りながら一言「ペース上げるぞ!」と。そうすれば門下生から「はい!」と返事が耳に入りその言葉通り私はペースを上げる。
折り返し地点まで駆けていれば少し向こう側にトレーナージャケットにフードを被って立ち尽くしている人が目に入り、ジッと目を凝らしてその人物を見ればどこかで見たような。そう見つめていればその人物としっかり目が合ってしまった。朝焼けの中、しかと青い瞳を見てしまえば一瞬動きが止まりそうになり

「皆はこのまま道場まで戻っていつも通りに!」

そう発すれば門下生は元気よく返事をし折り返して走り去っていきそれを確認した私はトレーナージャケットの男に近づいた。

「降谷、だよね?」
「ああ」

ジャケットの男、改め、降谷はフードを外すと私のことを見つめてきてわたしも同じように見つめ返すと降谷は大きく息を吐き出し目を閉じるがそれは一瞬のことであり再びアイスブルーの瞳で見つめられてしまうとその懐かしさに笑ってしまう。

「この間なんだけど、ごめん」
「いや、別にいいけど…降谷、結婚したとか」
「ではない」

そう私の言葉を途切れさせた降谷に笑ったまま頷き

「訳ありか」
「そんなとこ」
「警察にはなれた?」

とか答えられるのか、無理なら何も言わなくていいと言えば、降谷は本の少し黙りこむと「なったよ」と。そう、良かったと笑えば降谷は気まずそうにしているがそれは気にせず

「私もね、なったよ、歌手」
「知ってる」

マジかぁなんて言えば、奈々と付き合ってたし、よくヒロ…あいつと聴いていたから気付かない訳ないだろう?と随分な告白だがヒロをあいつ呼ばわりしたことに違和感を覚え

「ヒロ、元気?」

という問いかけに降谷は黙りこんでしまい、それに心臓をヒヤリとさせつつ

「それも言えないか、」
「ごめん……」

いいよ、気にしないで、機密次項なんでしょ?そう呟き視線を落とし

「ポアロには、いや、米花町にはなんで?」

なんて降谷の言葉に私は顔を上げ、借りたスタジオが米花町にあって、そこで新曲の音合わせとかをしていたんだけど

「そうしたら梓さんを引ったくりから助けてくれたのか」
「そんなところ」

そうして二人して黙りこみ視線を外せば

「俺の事なんだけど」
「うん」
「誰にも言わないでほしいんだ」
「と、言うと……?」

なんて問いかけなくても分かってしまうところなのだが聞いてしまうのは、まあ仕方ないだろう。

「訳ありで、俺のことは初対面の"安室透"として接してほしいんだけど…」
「いいよ」

あまりにもあっさりと答えた私に降谷は困ったように笑うと、今は何も言えないし説明もできないけ。それでも奈々を忘れたことはないよ。

「これ、」

降谷は首から下げた指輪を見せてきて、そして私も嬉しくなって同じように首から下げた指輪を取り出し見せた。

でもちょっとした事で一人になったりどうしても着けていられない時は外しているんだ。私はそっと目を細めて笑うと

「あー、なんか嬉しい…」
「、にしても奈々、その髪色なんだよ…凄いな…」
「すごかろ?」

私はふふと笑い降谷は私の髪に触れると軽く撫でてきて、いつもこの時間はここで走り込みをしているのかを問いかけられた。
柔らかな朝陽と供に笑いかけてきた降谷の手に手をそっと添えるように握りしめれば同じように指を絡ませてきて握りしめられる。

「雨とか雪の日以外は毎日」
「へぇ」

つまり今も道場で教えてもらっているのか?と問われると

「とうとう師範代になってしまった」
「凄いな…」

じゃあ俺も勝てないかななんて降谷はヘラリと笑い

「26年の経験舐めんなよ?」

力が強くなくても出来る動きはいくらでもあるから。

「まあ、負ける気はしない」

そう答えれば、「その自信は昔から好きだった内の一つ」なんて笑われてつられて私も笑ってしまう。
久しぶりの言葉にドキドキしてしまったのは気のせいではないと思いたい。

「それじゃあ奈々」
「ん?」
「またポアロに来てくれると嬉しいけど」
「初めましてだね?」
「あぁ」

そうして苦笑している降谷の手を離し笑って頷いておいた。


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