没庫(編集)
□/そのあと。
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剛。
名前を呼ばれてびくっと肩を震わす。
もういい。
その言葉に剛がふっと、肩から力を抜いて。それでも体勢は崩さないようにお尻を突き出した姿勢はキープ。
鞭を仕舞っておいで。の声にもぞっと起き上がったあとはこれも終わりの挨拶を深々と頭を下げてする。
「…っ、お、おしおき…ありがとうございました……っ、」
手渡された鞭を手に握って引き出しへ戻る途中、姿見に映る自分の尻を見て、真っ赤に腫れ上がった無残な姿に思わず息を呑んだ。
お仕置きの後の、これから1週間が、このお仕置きの辛いところ。
特に今日のお仕置きは、久しぶりに地雷を踏んでしまったようで、触れることもできないくらいジンジンと熱を持って歩くだけでも皮膚が痺れる。
鞭を置いてもう一度光一の足元に座り込んだ剛が開いた股に唇を寄せる。忠誠のキスとフェラのご奉仕をして初めてご主人様からのお許しが出る。この仕上げがこのお仕置きの最たる重要なことなのだ。
躾けられた通りに、剛が手を使わずはむはむと股間のフライを舌で弄る。唇と歯を使ってボタンを外す仕草をしたら光一がその額を手の甲で撫でた。
「剛、今日はいい、」
「ぁ、…っ、ん、」
剛が目を見開く。いつもと違う光一の反応に胸の奥を騒つかせながら剛が大きな瞳を揺らした。フェラもさせて貰えないほどの粗相だったのか。光一を見上げて、形の良い唇がもう一度ごめんなさい、とつぶやく。その腕を取って光一が剛を抱き上げた。まるでお姫様のように優しく抱き上げられると、剛の胸が高く跳ねて、うっとりとその胸板に頬を擦り寄せた。
「ん、ぁ…っ、」
ゆっくりと、広いベットの上に落としたあとは身体を丸めて転がる剛の上に覆い被さって褒美のキスを与える。唇から頬、首筋、鎖骨。肩、胸、脇腹。お仕置きの後のこれが剛は大好きなのだ。恥じらいながら身体をくねらすと不意にシーツと皮膚の摩擦がお尻を干渉してビリビリと身体を貫く痛み。
ひんひん鳴く剛の背中と背骨に沿って舌を這わせ、打ち据えた尻にはことさらに丁寧に、光一がキスを贈る。
「ん、…っ、ぁ、…っぁ、あ、ん…っ、」
ついつい、甘えた声を漏らしてしまう。
生ぬるい感触がヒリヒリと痛むのにやっぱり心地よくて、気持ちがいい。座れなくなるくらい打たれたお尻もここまで大切にされるとどんなお仕置きでも耐えられる。
こんな時間が好きなんだ、ボトム同士で集まった時に話したら周りからよく羨ましがられるのも、剛は好きなのだ。
お仕置きのあとの甘やかしが、甘ければ甘いほど愛が重いのだと感じられる。もっと雑に、他の飼われているボトムから時折粗雑に扱われる話を聞くたびに、光一の躾は厳しいがそんな風に扱われた事は一度もないと剛は思うのだ。だからこそ余計にそれだけで胸が喜ぶ。
たとえどんな粗相をしたって、罰を与えた後、光一はこうして剛を甘やかさなかった事は一度だってない。
ご主人様とのセックスなんて、剛が知るボトム達との会話では雲の上の出来事なのだとよく聞くが。
そんな話を思い出しながら、剛がゆっくりと目を閉じた。そもそも剛は光一の恋人だ。ペットで有り、奴隷でもあるが。何より大切なパートナーなのだ。
起き上がった光一がまた枕に埋めた剛の頬にキスをした。のそっとベットから降りるとアフターケア用のクリームを手に取ってまた、剛の身体に覆い被さる。
首筋にキスをしながら、絞り出したチューブから透明なジェルを真っ赤に腫れ上がった尻に塗り込む。時折、あげる悲鳴を宥めながら背中にキスを落として。
そのたび剛がうっとりと鼻から声を漏らす。
撫でると熱のもったそこがあつい。
ひっくんと震える尻の割れ目に指を挿し込んでゆっくりと内側を擦る。次第に息が上がって、剛が脚を開き始めた。シーツの滑らかな素材が干渉するたびに刺激を増長させる。
仕置きのあとの、肌との干渉を少しでも和らげるようにわざわざ海外から、特別に取り寄せた一枚の価値にさえ目を瞠るものがある。
「ん、…こ、ちゃぁん、」
も、むり…。
甘えるような声音に光一が息を漏らした。
片足を抱えて剛が尻たぶを拡げる。くっぱりと拡げたそこからとろっとローションが漏れた。ふふ、と微笑うだけの姿に指を咥えながら剛がねだる。
「も、…、奥、」
堪らず、光一がペニスの先をくっ付けた。ゆっくり亀頭まで押し込み、揺らしながら剛の身体を反転する。腫れ上がった肌への負担が少しでも減らせるようになるべく、他のものとの干渉は避けてやりたい。建前上は。
実際は、腫れ上がった尻を撫でて、揉んでのセックスはたまらなく心地がいいのだ。
痛みの余韻に引きづられて剛が叫び、内側を犯される快楽にも引っ張られてどちらともつかない快感に身悶える、その様が見ていて楽しかったりもするのが光一だ。
可愛くて、美しい剛が、痛がって泣き。善がって啼く。それも自分の手でそう思うとどうしようも無い愛おしさで光一の欲望が満たされる。
それを感じるために、わざと腫れた尻を手の甲で撫でたり、擽ったりを繰り返す。
痛みの刺激を思い出して内側に力を込めた時のこの圧が、また心地よくて光一が剛を見下ろしながら微笑んだ。
「剛、」
突然呼ばれた名前に肩が震えた。
「あ、ん…んっ、は、ぁい…っ、」
ひくんっ、と背を逸らせて剛が返す。
「お前は、誰のものだ?」
その言葉に剛の後孔が震えた。
びくびくと、痙攣しながらキツイくらいに光一を締め付ける。
「ん、…ぁ、っあぁ、こ、ぅ、…光一…っ、」
「そう、ずっとな。」
一生、手放してなんてやるものか。
身体を密着させてお互いの体温を分け合う。その居心地の良さに剛が涙を溢した。
ーーーfinーーー
#omake
「…っ、痛…ぃ…っ、」
座っても痛い。
歩いても痛い。
触っても痛い。
3日目のお尻が1番かわいそうだ。
鏡に映るお尻を眺めて深くため息。
毎日、ジェルは塗ってくれるけど。でも、えっちもするから結局、痛くて気持ちいい、なんかよく分かんない変な状態。
下着も部屋着も身に付けられないから、シャツだけ着ていたらお尻に干渉しないティバッグを用意された。お部屋にいる時はこの姿で許されるけど、人が来たり、外に出る時は痛いお尻を我慢して服を着なきゃゃいけないから基本的にはずっと、室内でうろうろ。
そんなぼくを遠目で見る光一は少し楽しそうだ。
ふにっとお尻のほっぺを撫でられて思わず肩が上がる。じんじんと痛む感覚に力が抜けて背後の光一に寄り掛かったら、ぼくの身体を抱き止めながら耳を舐めた。
「まだ、痛いか?」
「ん、ぅ…、」
唇を尖らせて俯いたら、その顎を掴まれて優しくキスをされる。このキスも大好き。
「…痛いの、…きらい……、」
「悪いのはお前だろ?」
光一の詰るような甘い声。
叱っているのに、全然叱っていない。お仕置きの時はめちゃくちゃ、鬼みたいに怖いけど。ぼくを愛でる時はマシュマロだ。
お仕置きのあとばかりは、流石にぼくもお尻が痛過ぎて自由には出来ないし。だから基本ずっとお家にいる。
多分、光一はこれを狙っているに違いない。
寄り掛かって凭れたら、口元を綻ばせた光一がぼくの身体を抱き抱えた。
「ん、…べっと…?」
「薬塗ってやる、」
「んふ、…えっちも?」
ニヤッと笑ってそれ以上は何も言わない悪い顔。ぼくにしか見せないこの悪い顔。うっとりと目を閉じる。
ーーー
#omake2
「…っ、痛…っ、」
ズキっと痛むお尻の前で手を震わす。
わなわなと、でも触れられない。痛いから。
「剛くん、大丈夫?」
隣にきた、男の子が首を傾げてぼくを見る。平気って返したあとはじっとぼくのことを見つめて隣のソファに腰掛けた。
座れる?って声に首を振って今日は無理、と答える。
本当は座りたいけど、ずっと立ちっぱなしやし。でも、物理的に座るのが難しい。
手元のシャンパングラスを軽く揺らす。波打つちょっと高級なオレンジジュース。
普段はあまりこうした社交場に連れて来られる事はない。今回は、どうやら少し勝手が違うみたい。よく分からないけれど、お披露目会がなんとか、そんな話を昨日寝物語でされた記憶がある。
行儀良くしろよ、朝起きてからも散々言われた。行儀良くって何?って聞いたら、いつもの奔放は封印しろって本気な顔して言われた。いつもより3割増しで可愛く笑え、言葉遣いも少しばかり丁寧に。この会場に来る途中の車でも、ギリギリまで言葉遣いと飲食の作法を練習させられた。
お陰で練習通りできている気がする。
座る事はできないけれど。
ぼんやりと、遠くの光一を見つめる。笑いもせず、相変わらず鉄仮面のような無血の顔。
数人の偉そうな人と挨拶をして、この会が始まった頃は光一にエスコートされながら沢山の人に愛想笑いを振り撒いた。ちょっとニッチェな会だから、とかぼそっと呟いた光一が数人の知り合いにぼくを紹介して歩いた前半。
今はすっかり一人で自由な時間。
パートナーって、紹介されるたびに嬉しくてときめいてしまったのを思い出して口元が歪む。
「剛くんの、…その首輪の、それ…、」
「んぅ?」
「本物?」
ソファに座っていた男の子が立ち上がって紫の首輪から垂れるスクエアカットの宝石をまじまじ眺めた。
「……、たぶん?…わからん、ぼく、そう言うの詳しくない、」
でも、輝きが本物だ、ってじっと見ながら彼が首を傾げる。そんな目の前の彼だって黒い皮の首輪は肌に傷が付かない素材でコーティングされている。いくつもの宝石が簾状に施されてきらきらしている。
「君も…、やん、」
「うん…、まぁ、そうだよね、」
ふふって笑う照れ臭そうな嬉しそうな顔。沢山いるボトムの中で、1番親しくなったのがこの子だ。屈託ない笑顔で、ぼくに挨拶をしてくれた。みんな光一の影を恐れて近づかない中唯一彼だけぼくの側に来てくれた。
「剛くんの、トップは、すごく厳しいって噂、」
好奇心の含んだ瞳の輝き。怖いんでしょ?って聞く彼の、着ているシースルーのドレスは殆ど内側が丸見えの透け透けだ。無残な鞭の痕が身体中に見えるし、僅かに隠れている胸の突起に布の上からでもその形がくっきり密着して、ピアスが付いているのが分かる。
それをチラチラ気にしながら、そんな事ないって首を振る。
「でも、噂で聞いた、僕のご主人様も昨日教えてくれた、」
「えー…、厳しい…かな…、厳しいけど、でもえっちはすごく優しい…、」
ここまで伝えたら、目の前の彼が目を見開いた。
「?!ご主人様とえっちするの?」
「……、君、せぇへんの?」
「…、いや、する時もあるけどそんな、に……、沢山しない……、かな、」
ぼんやり視線を天井から床へ移動させながら唇を尖らせた。その顔がアヒルみたいでとても可愛い。お仕置きのあとは必ずえっちしてくれるって話をしたら、持っていたグラスを握って瞳を輝かす。
そっと遠くの光一の方を見て意外だ、と彼が瞬きを繰り返した。
「んふ、そうなの?」
「だって、トップがボトムを抱くなんて何か特別なことがない限りないって聞くし……、」
「そうなの?」
それは初耳だ。
「でも、光ちゃん、躾は厳しいよ、」
ぼくが光一の方へ視線を向ける。つい先日のお仕置きを思い出して、忘れていたお尻の痛みを思い出す。ぼくが、呼んだ光ちゃんて愛称にも彼が驚く。そんな風にボトムがトップを呼ぶのは許されない、って。知らないし、そんな世界。
少なくとも、ぼくはそう言う風に躾けられた記憶はない。
「だって、パートナーやん、」
「…う、ん……、そうだけど、」
良いなぁ。ぼそっと呟く声がとても寂しそうだ。少し拗ねた顔をするから、でもお仕置きはとても厳しいって伝えたら、本当に?って目を細めた。
「本当やし、」
この間も、沢山打たれた。
許してもらえるまでに時間が掛かったって話をしたらぼくのお尻の方を指差して、それ?って目を丸くする。
「ん…ぅ、」
ゆっくり頷く。
「でも、確かに……剛くんが着てるドレスコードからして、大切にされてるってのが伝わる、」
腕を組んでぼくの服装をまじまじ見つめる。周りの子と比べてみると、確かにぼくのコーデは少しだけ色が濃い。光一の趣味なのか、大体シースルーのナイトドレスを身に纏うボトムが多い中、ぼくのは同じくシースルーでも少しだけ透明度が低いのだ。中までは完全に見えないし。
大切なところは華の刺繍で隠されている。はっきりと身体の輪郭まで見えない仕様。
ドレスの裾を少しだけ上げて、チラッとお尻を見せてあげる。
真っ赤に腫れ上がったそこをみて息を呑んだ。
「…、真っ赤っか…痛そう、」
「うん、痛くて座れない、」
触って良い?不意に聞かれて、慌てて裾を下ろす。
「だめ、そんな事、光ちゃん以外の人にさせたら本当に、また…、」
想像して血の気が引く。
むぅっと頬を膨らませて彼を見たら少しだけ悪戯な顔をした。君のご主人様に言い付けてやる、小さな声で呟いたら少しだけ満更でもない顔をした。
ーーーowari.
作法と挨拶の続きを読みたいとお声を多くいただいたので急遽仕上げました。