小説 短編集.10

□発散
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エロいな…。
相変わらず。

「勃、って…、」

小さな声で呟いたつもりが、運転席に届いたのか。天才くんが、え?っと。

「いや、…、このこれ、」

手渡された、剛の映像集。と新作のアルバム。今回は本番の映像も含めて、メイキングのもしっかり収録、編集されてる。

「勃つ、って書いて、…ぼつって読むの…、えろ過ぎない?」
「ふふ、剛さんの言葉遊びですよね、」

衣装も前のよりかはかなり落ち着いてるけど、でも、どこかに隠し持つエロス。
何だろうなぁ。この色気。

出来上がったアルバムの裏面を見ながらなんとなく卑猥さを感じるのは俺だけなんだろうか?自分の脳みそがおかしいのかと本気で疑問に思う。

発情期なんだろうか?

「まぁ、ムラムラしない訳ではないんだけどさ、」
「はい?」
「あ、いや、なんかもうほんと…ほぼ、セクシー動画だなって、」

これ…。
ミラー越し、アルバムを見せる。
ちらっと見た彼がふふっと笑った。

もう一度視線をモニターへ戻す。

衣装も奇抜だが、センスに長けてる。
剛に付くスタイリストもメイクも天才だな。つくづく思うよ。

緩やかに腰を振って高音を奏でる画面の中の男。運転席の天才くんが、発売日がどうの、特典が何ちゃら話している。
耳を傾けながら、受け取った紙に今回のグッズが掲載されてる。

「これ、全部出すん?」

紙の束を掲げたら緩やかに首を振った。
いや…、ここまで言ったところで後部座席の扉が開いた。

おつかれ、乗り込んで来た剛が、隣に座る。
俺が見ていたモニターに視線を向けた後、こちらを見た。
くふっと笑って、肩を竦める。

「見た?」
「ん?うん、」
「どう?どうやった?」

少し、近付いて顔を覗き込んでくる。
まぁ、まぁ良いんじゃない?
取り敢えず流すように相槌を打つ。

むぅっとした剛が、肩を竦めた。

「いや、ほら。剛くんの世界観はさ、なんつーか、俺には分からん、」

笑って誤魔化したら、そうじゃなくて、と。

「なによ、」
「だから、ぼくの世界観の話違うの、」
「んはは、えー、」
「あのね、衣装とかぁ、髪型とかぁ、」

なんかあるやん。
モニターを見ながらぶつくさ。

「まぁ、…えろい?」
「んふ、…それは、お前のせいやろが、」

何でやねん。
肩を肩で押す。

「ここでしか、発散できないもん、」

昇華出来ない想いもあるし。
また呟く。
じっと見たら少し恥ずかしそうに顔を逸らした。ふ、と自分磨きの話をしたら、剛がいつもの上目遣いで俺を見る。

「これが、自分磨きみたいなもんやもん、」

剛が逸らした視線を追いかけて一緒にモニターを見る。ここでハッとする。

そうか、これが剛にとっての自分磨きか。だから、こんなにもエロティシズムを感じるのだ。

いいねぇ。
呟いたら、一言。
変態と詰られる。

でもここでハタと気付く。
いや待て、自分磨きって一人遊びやぞ。
お前、大勢の前でやってるんか?
思わず、またモニターじっと見る。

ーーーfinーーー
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