小説 短編集.10

□光一くんの“コウイチくん”
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剛くんっ!

控室に挨拶へきた数人の後輩くん。
わちゃわちゃ、がやがやしたあとぼくの前に落ち着いた1人が遠くから光一を眺めた。

うひゃひゃと笑う姿に移り笑いしながら、視線をぼくに戻す。
光一くん変わらないですねー、とか。かっこいいなぁとか。何気ない話をしながら、そのあとじっとぼくを見た。

「んぅ?」

気になるからぼくも見つめ返す。

「剛くんて、」

ん?
首を傾げて見ていたら、視線を少しだけ外れたそのあと照れ臭そうに笑ってもう一度ぼくを見る。

「………光一くんの“コウイチくん”見たことあります?」
「は…っ?」

ほら、ここって下半身を両手でもやもやさす。

何を言うてんねん。

あるとも、無いとも言えへんがな。
怖いこと聞きよる。

ちょっと黙ってムッとしてたら、少し申し訳なさそうに彼が肩を竦めた。親しくしてる同期の先輩のコンサートへ参戦した模様。
そのMCで、会場のシャワー室の話になったとか。マンモスがどうの、小ゾウがどうので。

唯一、見てやろうと思ったメンバーのだけ見れなくてって、そんな話しで盛り上がっていたらしい。

「えー…、」
「それで、別の日ですが、光一くんにその話したら、ノリノリで…、」

ふふっと彼が思い出し笑い。

「剛くんは、光一くんの“コウイチくん”見たことあるかな、って、」
「なによ、それ。」

答えずに居たら、光一はぼくの“ぼく”をよく知ってると大笑いしていたそうな。

あほか。
変態め。

顔を逸らしてため息を吐いたら、また興味深そうな視線を向けてこちらを見る。

「そら、あるでしょ。30年来の付き合いですんで、」

しれっと伝えたら、ですよねー、と。

何が、ですよねー、やねん。
じっと睨んだら、悪戯っぽく笑った。

どうやらそのグループのメンバーは長い付き合いの未だに見た事が無いとか。
まじ?驚いて顔を上げたら、いつも厳戒態勢です、と。

「秘密があると思うんですよー、」

また、楽しそうに笑う。
秘密ね。
不意に自分のを思い出す。あのプレゼントされたジュエリーを付けてる時は誰にも見られたく無いし、見せたく無い。

たしかにそれを考えたら、秘密があるのかも知れへん。そうそう、好きな人以外には見せたく無いものだけど。

「…おっぱいとか、」

ボソッと呟いたら、後輩くんがぼくの方を見た。首を傾げるからぼくの“ぼく”もそうやけど、特別な機会がない限りそう言う所は見せないでしょ?って聞いてみる。

「…たしかに、」
「誰かが、イタズラで見るとか、そうやないと…、」

でも、ぼくはおっぱいの方がなんか罪深さを感じてしまう。続けて伝えたら、視線がぼくを見てそのまま胸元に移動する。

「なによ、えっち、」

敢えて両手で、ビーナスの如く隠す。
服は着てるけど。
目をぱちくりしながら目の前の子が肩を竦めた。暫く考えた素振りのあと、何となく納得したように頷く。

「なんか、剛くんの、って考えるとおっぱいに関わらず罪深さを感じますね…、」

イメージも許されない…。
彼が呟く。

「光一くんのは、まぁ…、なんか平気って感じですけど、」

へへっと笑って少しだけ顔を赤らめた。

「温泉、入ったことあるし、」

彼が続ける。
だから、ぼくとも入ってみる?って聞いたらチラッと光一の方を見た。ぶんぶん、首を振ってそれは絶対ダメです、と。ぼくのはやっぱり許されないと、首を振って。

遠くの光一に視線を戻した。
まぁ、彼が言うことには何となく納得してしまう。

ーーーfinーーー
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