小説 短編集.10
□お宝.
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“悪いけど、”
ソファの上で一休みがてらコロコロしていたらスマホが音を立てた。
軽快なスイング音に、ロック画面を見たら通知が一件。
そのあと続けてもう1通届いた。
開いてみたら光一から。
2通目は光一にしては珍しくちょっと長めの文章。どうやら昔の公演映像が欲しいとのこと。あまりひっくり返して、探し出して見ることはないがDVD化された映像や、舞台中に回してる資料用の映像は毎年データ化されてるみたいで。
その10年くらい前のものが、急遽必要になったから探して明日持ってきて欲しいとのこと。
ふむふむ…。
なるほど。
りょーかい、のスタンプを送って保管場所の書斎へ。普段は光一しか使わない、光一の仕事場みたいな空間。
使い込んだパソコンと、大きな本棚が2つ。
腰の高さまでの棚が並んで、本やら、車のなんかやらタイヤのゴムやら綺麗に並べられてる。
「えー…ここのどこにあんのかなぁ、」
物が多すぎて全然ヒントが分からへん。
取り敢えず、どこら辺?って送ってみると、もう既にスマホを見てないのか中々既読にならない。
仕方なし順番に探していく。
ん〜……、こことか?
ちょっと気がひけるけど、取り敢えず机の引き出しを開けてみる。資料やら難しい本がごっそり。一部手に取ってパラパラしてみるが全然分からへん。
てか、水の流れに関する論文…て。
なんでこんなん持ってるの?
不思議やねんけど。
戻してまた漁る。
懐かしい写真やらCDやら、昔光一がドラマしていた時のDVD BOXやらが出て来る出てくる。でも、何故かしょっくのが出てこーへん。
場所を移動して大きな本棚へ。
むぅー……。
上から見て、またよく分からん宇宙の倫理がどうの。生物学のなんちゃら…。
塩がどうの。月の満ち欠けが〜〜……。すごいなぁ、あいつ、こんなんよく読むな。分厚い本を一冊手に取って捲る。
好きなの?
好きってこと?
こわぁい。
手に取った本を戻して棚をずらす。ずらららっと並んだ、今度はぼくらの仕事関係の資料。
わ、懐かしい。
昔の、コンサートの時のプロット。思わず眺めて思い出す。そうや、なんか思い出してきた。この時こうやったわー。
あー、これぇ…。
見ながらつい懐かしむ。
覚えてない、知らんて言う割に結構しっかり保管してる。
社長からもらったであろうプレゼントのまたよう分からん本とかも見つけて、驚愕ばかり。不意に下の方に大きなラックを発見。埋め込むように入ってるから屈んでみたら、なんと、金庫。
取っ手を引くけど金庫だから、やっぱり開かない。
え…。
なにこれ。
しゃがみ込んで見てみたけど、ミディアムサイズの、普通のサイズよりは2回り程大きい。逆に怖くなる。なんだろ…。
テンキー式と鍵の差し込み口が両方ついてる。
取り敢えず、自分の誕生日を入力。
開かない。
光一の誕生日。
開かない。
ぱんちゃん。
開かない。
全部足してみる。
開かない。
うぅ〜〜む。
気になる〜…。
腕を組んで悩むことしばらく。その場に座り込んでじっと金庫を見る。テンキー式やと数式が限りない。
九つのナンバーだから、組み合わせた数字でも9000通り以上か…。じっと睨む。
そもそも何桁設定なのか?
てか、そもそも鍵がないとテンキー解除しても開かない仕組みやろか?自然と本棚全体を見回す。上の方にガラスで出来た小さな灰皿を発見。
覗き込んだら鍵がぽつんと。
それも、2つ。手に取って眺める。
二つある鍵穴の内、一つへ差し込むとジャスト。もう一つも同じだからおそらくマスターとスペアだろう。
テンキーと対になってる鍵はこれか…。
またぼんやり金庫を眺める。
なに入ってるんやろ。気になるぅ〜…。
だって、金庫やもん。
金庫って言うくらいやから、もしや…銀行にも預けられないくらいの金塊とか…?
どうしよ、ものすごいインゴット隠し持ってたら…。
いや、もしかして。
ここで頭を振る。
光一のことだから誰にも言えない、ものすごいえっちな何かとか。ここまで考えてハッとする。それはないな。
隠し持つことはしないだろう。そもそも隠してないんだもの。寝室のクローゼットにはあいつ御用達のお道具の棚がちゃんとあるし。
…だとしたら、ここに入ってるのは一体…?
改めて文字盤と鍵穴を注視する。
テンキー式文字盤の横に鍵穴が2つ。
じっと見つめること数秒、ここでハッとする。鍵穴の種類が2つとも違う。穴を指で撫でてまたじっと見つめる。
もしや…。
もう一つの穴に同じ鍵を差し込んでも合致しない。噛み合わず、鍵が入っていかないから思わず口に手を当てて息を呑む。
「うそでしょ…、」
こんなに手の込んだ金庫なの?!
……こっちは、テンキーと一緒に差し込んで開けるタイプなら、こっちは?
もう片方の鍵穴を指先で突く。
鍵穴はかなりややこしい印象。若い頃の記憶を引っ張り出して思い悩むこと数分。鍵穴がついてるタイプは……鍵さえあれば開くはずやと思うけど…。
うぅ〜〜む…。
テンキーと一緒やからな。
そうや!
思い出した!
テンキーは確か、電池式やったな。金庫の周りを見える範囲で再度確認。
「おっ!」
緑に光る小さなランプを発見。
そうや!ビンゴ!
スマホを取り出して検索。
「テンキー式は稀に電池切れを起こす…、ランプによって作動中か確認できる…、」
ふむふむ。
金庫の側面を覗き込んでも型番は分からない。頭が棚の奥まで入らずシールが見えない。金庫も重くて動かせない。ちくしょう…。
側面の隙間に、手を入れてシールをなぞる。
くっそ〜…。型番わかればなぁ。
この金庫が何系なのかわかるんだけど…。
シールを撫でながら考える事数分、ここでハッとする。
そうや!鏡や!
小さな鏡やったら入るなこの隙間。
急いで自分の鞄を取りに行く。
取り出した、持ち運び用の小さな鏡。手に取って隙間に入れるとジャスト!
型番が反転して映ってる。見える文字のアルファベットと数字をスマホで検索したら見事同じ型の金庫が出てきた。
まず、驚きの値段に目が回る。
こわ。
そのあと金庫の仕様説明。やっぱり、テンキーは電池式だから電池が切れると動かない。このタイプの金庫はどうやら内側から電池交換するタイプらしい。
電池が無くなると開けられなくなるから、付属の鍵を使って開ける方法もある、と。
なるほど!
ビンゴ!
て事は、部屋のどこかに付属の鍵があるわけだな。
立ち上がって書斎全体を眺める。
あいつ、金庫の鍵どこに隠すかな。
室内をウィニングランしなが棚という棚を物色。ゆっくりと室内を見渡しながら蘇る懐かしい記憶。
……この事件、絶対に解決してみせるっ!
視線をキッと金庫へ戻し、
「じっちゃんの名にかけて!」
1人盛り上がって叫んだと同時に、書斎の外から、わん!と聞こえた。
あ。
ぱんちゃん。
いそいそ、出て行ってパンちゃんの元へ。
取り敢えずご飯あげな。
てか、その前に資料映像探さな。
ーーーfin…?ーーー