小説 短編集.10

□バタバタ
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「剛さん、この後スポンサーの方と会議です、」
「はぁい、」

天才くんにスケジュールを渡されて返答したら、隣の光一も何やらバタバタとあっち行きこっち行き。
小スペースの室内でお互い、忙しそうに動く。

あーでもない、こーでもない。
スタッフの話が飛び交って。
でも、2人の打ち合わせも盛りだくさん。
戻ってきた光一が、ふぃーとひと息。
アイスコーヒーを煽ったあと資料をペラペラ。

そんな時に限って後輩が挨拶に来たいとか。普段はお目に掛からない後輩くんや、若い子たちが近くに居るって話を聞く。

しょうがねぇな。
呟いた光一がため息と同時に許可する。ソワレだからって暇じゃねえからなー。ボソボソ資料を捲って、なにやらタブレットをいじる。

「次も、演出関係…、何かするの?」

ぼくが光一の隣に移動したら、見上げた彼が自然と椅子を引いてくれた。そのまま座ってタブレットと資料を覗き込む。

「まぁね、…担当って訳ちゃうと思うけど…、なんかさ、指導入ってる、」
「んふ、お父さん大変やね、」

まぁ嫌いじゃ無いからさ、って笑う光一はやっぱり生き生きしてる。

「きょぉ、帰ってくる?」
「ん?」
「やってぇ、そわれなのに昨日帰って来ぉへんかった、」
「んは、すまん、すまん、」

昨日はもう忙しくて。
移動、移動のオンパレードだったらしい。打ち合わせとインタビュー、雑誌の撮影、その他諸々兎に角めちゃくちゃ立て込んでたのだとか。

「ふぅん、」
「ふふ、でも夜帰ったよ、」

いや、朝かな?
光一がヘラっと笑ってぼくをみた。

「うそ?」
「ほんと、」
「えー、知らん、ぼく。」
「うん、寝てたからね、」

なんで、起こしてくれへんの?
詰め寄ったらニヤニヤしながらまぁまぁって宥めてくる。へらっとして。
かぁいかったよって。

「なにが、」
「ふは、剛くんの寝顔、」
「やめて、」

顔を背けたら、ポッケから携帯を取り出す。なにやら操作して呼び出した画像。
画面いっぱいに映るぼくの寝顔、とその横にワニのぬいぐるみ。

「あ、」
「ふ、ふは、となりにこれ置いたら、こぉちゃんて、抱きついてた、」

悪戯に目を細めてケラケラと笑う。
高笑い。

そうか、それで朝目、覚ました時ワニのぬいぐるみ抱き締めてたんか。なんでやろ?ってちょっと疑問やった。
たまに抱きしめるけど、昨日はぎゅーしてなかったもんな。

「早よ、本物と寝たいわ、」

ぷぃっと背けたまま立ち上がる。
ちょうどそのタイミングで控室の扉が開いた。わらわらと入ってくる子供たち。ぼくもそのタイミングで天才くんに呼ばれる。

「剛さんの次の打ち合わせ、会議室空きましたよー、」
「うん、ありがとぉね、」

荷物をまとめていたら、光一がぼくの名前を呼んだ。

「剛、」
「んぅ?」

目が合ったあと、光一が何かを言いかけて首を振った。なんでも無い、って。そのまま視線を後輩くん達へ。ぼくも数人に手を振って部屋を出る。

廊下に出てから、携帯を開いたら通知が一件。

“週末は帰る。”
“必ず。”

立て続けに送られてきた2通目。

“当たり前や。”

ぼくも送り返す。

ーーーfinーーー
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