小説 短編集.10

□香水.*
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“会いたい”
“行ってもいい?”

楽屋に戻ったら来ていたメッセージ。
時間と、この後のスケジュールを脳裏で蘇らせる。

“夜、なら。部屋にいる、”

すぐに既読は付いて夜に行く、とだけメッセージが届いた。

珍しいな。
俺の公演中は基本、仕事以外では会いに来たりしないのだが。たまに、差し入れとかで顔を見せにくる程度。ホテルにまではこっちが誘っても中々に応じてくれることはない。

何かあったのかも知れん。

携帯の画面を落としてジャージに着替える。
わがままと言うほどの事でもないけれど。内助の功だからな。
俺が舞台で居ない時はじっと耐えて我慢している。

そんな姿をふと思い出した時楽屋がノックされた。




結局、約束の時間より大幅に遅れた。
微調整が毎度ある。
状況やスタッフによっては大幅な変更が訪れたり。話し合いは長引くこともあれば、さっと終わることも。今回は前者だった。

時計を気にしていたが、話が終わらないと分かると頭を切り替えて、途中ホテルのカードをチーフに渡した。
剛、来るから。その一言だけで察しは付いたのか受け取ったそれを持ってどうやら剛のスタジオまで行ってくれたらしい。

ホテルのエレベーターで剛にメッセージを送ってみる。返信はすぐに届いたから、きっと起きて待ってるのだ。
部屋の前に到着したタイミングと扉が空いたタイミングが重なる。

目が合った剛がふわっと笑った。
思わず、自宅に戻って来た錯覚に陥る。

「ん、おかえり、」
「すまん。遅くなった、」

ううん。
首を振った剛が抱き付いてくる。

「ふは、どうした?」
「……べつに、」

なんでもない。
腰を抱いたら肩に頭を乗せて剛が一息。
堪らず、抱き上げる。

「また、痩せた?」

ちょっと軽くなった気配。
ここで、ふと香るいつもと違う匂いに気づく。

「……な、に?なんか、におう、」
「んふ、言いかたぁ、」

少し爽やかなアップルグリーンの香り。

「なんで?」
「んー…、なぁんとなく…?」

何となくで匂いを変えるものか?
じっと見つめててたら早く、早く部屋に行け、と身体を揺らす。

「んは、」

抱きしめたまま、室内へ
そのまま何も言わずベットに寝かせたら、むぅっと唇を尖らす。

「…えっちぃ…、」
「ふふ、まぁまぁ。いいじゃないか、」

覆い被さってキスをする。
飯食った?
聞いてみると瞼を伏せて首を振った。そのすぐ後に、今日は要らないって。
首に腕を回すから。

「……むぅ、……やって、そのために来たもん、」
「…そのため?」

少し恥じらってもじもじ。
耳元に唇を寄せてくる。

「んぅ……、えっち、」

するため、って。

「ふは、なによ、それ。」
「んぅ、早よ、」
「ふふ、えっち?えっちするために来たん?」
「ん、そぉ…、」

なんやねん、その可愛い理由は。
ほんまにどうしたものか。可愛すぎるやろ。

「珍しくない?」
「んぅ?」

キョトっとした丸い瞳が俺を見上げる。キラキラと光を集めて八重歯を見せた。
シャツを捲って、ズボンに手を掛ける。ゆるゆると下着ごとゴムを引っ提げたら剛が少しだけ腰を浮かせた。

「ほら、…まぁ。あの…、舞台中はさ、来ないやん、」

普段は。
えっちしたくても我慢するのに。今日は随分と珍しいから。
何となく、濁しながら訊いてみる。

「ん、…ぅ、ややった?」
「いや、いやいや、大歓迎ですよ、もちろん、」
「あ…っん、…ふ、」

首筋に顔を埋めたら香水の匂いがさらに強い。

「香水?風呂入ったの?」
「…、シャワー、借りた、だめ?いや?くさい?」
「ふふ、なでやねん、まぁ、ちょっと化学的な匂い?」

嫌じゃないけど、いつもの剛の香りが好き。
伝えたら嬉しそうにはにかむ。

「ん、…っ、このあいだなぁ…、」

首筋から鎖骨へ舌を這わせていくと、感じ入った剛が瞼を震わす。

「ん?」

はふっと息を吐いた後、数回浅く、深く呼吸を繰り返した。

後輩くんが…、甘えた口調で話を続ける。途中、小さな喘ぎを漏らして首元を逸らす。胸の脂肪と、乳首の輪郭を指の先で撫でたら小さな悲鳴をあげた。

「ほら、続き、」

指の動きも、手の動きも止めないまま先を促す。

「あ、ん…っ、すたじお…、きて…ぇ、」

楽器やら何やら見ていたのだとか。新しい曲がどうの。ギターの弾き方がなんとか。色々と話して、教えてほしいって言うから教えていたらやたらと距離が近くて驚いたらしい。

「ん。ほんで?」
「あ、ん…っ、めちゃくちゃ近かってん、…やから、ぼく、……くさいかなって…、」

あまりの近さに思わず、自分の匂いを勘ぐったとか。剛が、俺を見上げた。

「…ぼく、くさい?」
「ん〜…、化学的な…、」

今の匂いを伝えたら少しだけムッとする。
ちがうの。そうじゃなくて。言いながら口元をぷすぷすする。
じっと見つめる視線にヘラついてまたキス。

「ふは、まぁそれは冗談として。…しないよ、感じたことない、」

むしろ剛はちょっとミルキーだ。
おっぱいの匂いがする。
上体を起こして脚を片方押し上げる。恥じらったあと中心を両手で覆うからその手首を両方掴んで纏める。

「ん、ぁ…光一…、」
「いいから、」

隠すんじゃない。
ぷるんっと上を向く可愛い性器を眺めていたら、双丘の間からとろとろと溢れる液体。
指の背で触れたらローションの感触。

「ふふ、もう入れてんの?」
「ん…、直ぐできるように…、」

準備してた…。
今度は、離した片手で尻たぶを掴む。見せつけるように孔をくぱっと拡げて。におう?ってもう一度聞いて来た。

「まぁ…、強いて言うなら、えっちな匂いがぷんぷんするかな、」

サイドカウンターからコンドームの袋を取り出したら剛がパチンと目を見開く。ゴムするの?ってその声も随分と落ち込んだような声音。

「ん、明日早いし、お手入れ出来へんからね、」
「んぅ……、ぼく、自分でできるもん、」
「あかん、」

やってぇ、とねだる唇をまた塞いで舌を絡める。

「ん、…だめ、直ぐ終わらんから、」
「…ん、ちゅ、…っ、ふ、…ん、ぁ…、す、ぐ?」
「そ、今日は長く、ゆっくり。」

ずっと繋がってる。
囁いたら、それだけで剛が喘ぐ。ほら、やっぱりえっちな香りを放って。
たまらなくエロい。

首元に顔を埋めて大きく息を吸い込む。
はふっと息を吐いた剛が何かを言いかけるから、もう一度被せて臭くない、と伝えてやる。

「やって、ぼくも、……おじさんやし、」

こんな可愛いおじさんがどこにおんねん。

「誰や、その後輩、」

名前を言え。
剛を見たら、またむぅっと唇を尖らす。
腰を掴んだら剛が上体を起こした。俺が持ったラテックス素材のそれを奪い取ってペニスの先端にくっ付ける。

「ん、剛、」
「ぼくが、付ける、」

そのままくるくる、と指先を器用に動かす。ピッタリ被せたペニスを一度手のひらで握ったあとはうっとりと微笑んだ。

「ん、…おっきい…、光ちゃんのおちんちん…、」
「ふは、そやろ。誰のせいや、」

責任取れよ。
膝立ちしたら、こくんと頷いた剛が四つん這いになる。尻たぶを拡げて、ねだってくるその姿がたまらなくエロい。
すけべだ。

孔の縁を拡げて先端を埋める。
ぬくぬくとハマっていくこの感じがすげえ好き。そのまま背中に覆い被さって頸にくっ付く。寄り添って抱きしめながら緩やかに腰を揺らす。

喘ぐ剛の声が枕に沈む。

「っ、剛、…っ、は、…気持ちい?」
「ん、っ、…ぁ、あ、ん、」

ゴム越しにもわかる。
襞が絡みついて吸い付いてくる。たまらなく気持ちがいい。
また、ツンと香る甘くて、蕩ける匂い。嫌いじゃ無いけど…、やっぱり若干不快だ。

「ん、嫌じゃないけどさ、」
「ん、ぅ…っん、ぁ、あ、ぁ、…っ、」

そのまま腰を支えて肩を抱く。
緩やかに抱き起こしたら剛がひっと、叫んだ。にゅるっとペニスが抜けて、でも直ぐに後背位で座らせる。

「ふふ、いいね、ローション入ってるから直ぐに呑み込む、」
「ん、あ、あぁ、ん…っ、あ、あぁ、あ、ぁ…っ、」

びくんびくん、と身体が震えて。
ペニスを締め付ける襞が痙攣を繰り返した。

香水…。
剛が天を仰いで、涙を溢した。身体を震わせながら小さな声で呟く。

「ん?香水?」

それがどうしたの?
腰を揺らしながら耳元で囁いたらきゅっと孔が締まった。

「……ん、は、ぁん…っ、変えた方が、…っ、ん、…いいっ、て…、」

剰えその後輩に香水をプレゼントされたそうな。いつも、普段は香水付けないけれどそんな事を言われたら流石の剛も少し傷付いたのだとか。パンがいるから香水付けなくなった俺に倣って、剛も最近はつけなくなった。
ボディソープとオイルにはかなり拘ってるが、朝になると香りは霧散してるし。
少し馴染む程度なんだが。

それを不快に感じたことは俺はない。

それを伝えても一緒に住んでるからだって。剛がネガティブモードに入ってる。
周りに確認したけど、そんな事感じたこともないって返されたそうな。
でもやっぱり少し傷付いた、と。

ほろりと溢す涙。

気持ちがいくて流れた涙か、悔しくて流れた涙か。堪らず背後から抱きしめる。身体を押し倒してそのままペニスを引き抜いた。

「あ、…っ、な、んで…、」

眉根を寄せて切なそうにする顔。
腕を引いて抱き上げる。

「ん。風呂入るぞ、」
「あ、…っ、え、…光ちゃん…、」

慌てる剛をそのまま抱き上げて浴室へ。
戸惑う剛にシャワーの粒を当てながら、剛に持たされたボディソープで念入りに身体を洗う。

「えー…、香水、」
「いらん、そんなもん、」

流れていく香り。
貰い物の香水なんて付けてるんじゃない。少し叱ったらしゅんとした。
ぐすっと鼻を鳴らして俺にしがみつく。

「む…っ、光ちゃんに、……だからね、…光一に会いたくなったの。」

光一の匂いを感じたくなった。
肩口に顔を埋めて剛がすんすんと鼻を鳴らす。

「そおか、」

宥めるようにキスをして。
宥めるように身体を撫でる。抱きしめたまま湯船に浸かった。
でも腑に落ちない。
だからその後輩誰や、って聞くが頑なに名前は言わず。




結局、ゴム付けてしようと思ったセックスも生になってしまった。湯船の中でも剛の身体を念入りに洗って。
すっかりのぼせてしまった剛がベットの上でぐったり。

少しだけ覆い被さって頸に顔を埋める。いつもの剛の香り。ミルキーでちょっと、心なしかおっぱいの香りなのだ。
胸元にも鼻を近づける。

よし、ここも剛の香りやな。
よしよし。

腕を掴んで今度は腋の下を嗅ぐ。
ん、ここも剛の香り。

そのまま口付けてキス。
舌で舐めながら脇腹、お腹、下腹部へ。

「ん、…ちょ、と…、こういち…、」

何してんの?って目の開かない剛が呟く。

「匂いチェック、」
「なに、それえ…、」

へんたぁい、甘えるような声音は玄関で会った時よりも嬉しそうだ。
まぁ、いいから。
今度は布団を捲って、膝を押し上げる。
萎えた性器の、その毛の間に顔を埋める。
そこも、大きく息を吸って香りを感じる。オイルと剛のいつもの香り。
食む食むと唇で挟みながら、すんすん匂いを嗅ぐ。
陰嚢の間にも鼻を押し付けたら、剛がくふくふと肩を揺らした。
尻たぶを拡げてそこにも鼻を近づける。
そこは剛の匂いって言うより、俺の匂いに近いかも知れんが。風呂で散々注いだからな。

よし。
問題はない。合格だ。

上体を起こしたら剛が力無く両手を広げた。

「むぅ、…光ちゃんの、匂いも、ちぇっくするう…、」
「ふふ、俺のもしてくれんの?」

力無く頷くから腰と背中を抱き上げて俺の上へ。すんっと鼻を鳴らしながら剛が俺の首筋で息を吸い込む。

はぁ〜…、と息を吐いたあと小さな声で好きって。

こりゃ、あれだな。
調査が必要だな。
右腕'sに依頼するか。とりあえず剛の意識がハッキリしたらもう一度匂いのことは伝えて…。
貰ったであろう香水も、……なんとかせな、あかんな。

少し伸びた横の髪を指先に巻き付けながらぼんやり天井を眺める。剛が少しだけ身震いをしたから手繰り寄せた布団を被せて目を閉じた。

ぐるぐる思考を巡る作戦。

よし。
明日考えるか。

ーーーfin…?ーーー
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