小説 短編集.10

□それは、気圧?
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眠い…。

ボソっと呟く声。
振り向いたら長机の上で剛が突っ伏している。

「気圧かなぁ…、」

気圧やねん。
自分で言って自分で答えながら剛が机に額を擦り付けている。

気圧?
気圧かね?それは。

ここ数日を思い出しながら首を傾げる。睡眠時間は思ったほど短くないと思う。確かに忙しそうにしてるけど。

「眠れてないんですか?」

不意に聞こえた声。

また視線を剛の方へ向けたら、アイスコーヒーのカップを手に天才くんが剛を見つめてる。受け取りながら剛が首を振った。

「たくさん寝てる、」
「頭、たくさん使ってますもんね、」

カバンから徐に取り出す冷えシート。額に貼りながら剛がため息を吐いた。

「あたまもいたい、」

多分、気圧やねん。
またボショボショ、呟く。

「夜は眠れてますか?」
「んぅ?…う〜…ん、」

少し考えてからちらっと俺を見る。
頻度で言えば最近は剛からのお誘いが多い。寝かせてないことは無いが。

確かに考えてみると、そうだな。
眠れないから、誘われるわけだし。結果、体力が削られるって現象が起きる。

「でも、睡眠時間はすっごく長い。」
「そうなんですね、」
「んぅ、公演あるとやっぱりぎりぎりまで頑張っちゃうけど、今休みやし…、」

まぁ、夜はちょっとアレだけど…。
剛が語尾を濁したあとよく寝てる、と。

「最近、天気も落ち着かないですもんね、」
「梅雨、かぁ…、」

窓の外を眺めた剛が降ったり止んだり、と繰り返す。こうも毎日、微妙な天気が続くと、やっぱり体調も落ち着かないのだ。
特に、不調が身体に出てしまう剛は、分かりやすい。

雑誌を捲って視線をまたちらっと剛へ。

だから、最近夜はソーメンとか蕎麦とかうどん。たまにしゃぶしゃぶ。
付けタレも大根おろしとポン酢とか、かなりあっさりしてたり。身体が欲しているものを無意識に作るんだろうな。
思い出して、つい納得してしまう。

そのくせ夜は夜で俺を待つから。
遅く帰ってまだ起きてたの。なんて言われたらそら、お父さん頑張るじゃん。
少し反省。

深いため息と同時にまたぐったり突っ伏する姿。

結局、ホテルと自宅を行き来する日々に。スケジュールの都合で帰れないと言ったものの、次の日のスケジュールによっては帰宅を許された。それでもやっぱり数日置きペースだが。話をしたら、なんだか嬉しそうに頷いていた。良かったって、安心した時の笑顔と同じ笑顔でその日の帰りも俺を迎えて。

そうなったら、そら。
やっぱり励むってもんで。
思い出していたら、携帯の画面が一件の通知を表示。机に置いたまま開いたら剛から。

“きょうは?”
“明日早い”

その一言だけ返す。
ホテルに戻るのをなんとなく察した剛の頭が揺れる。舌を出したキャラクターのスタンプがひとつ。こちらに頭を向けたまま突っ伏してるから表情は分からない。

もしかしたら、あれは……。
気圧じゃないかもしれん。

不意によぎった疑問を掻き消す。

ーーーfinーーー
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