小説 短編集.10

□ソファとベット
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光ちゃん。
ねぇって。
光ちゃん、ベット入って寝てえ。

身体を揺すられる感覚でハッと目を覚ました、いつものホテルのいつもの見知った天井。

「…あ、れ…っ、」

と思ったらそのまま身体が真っ逆さま。
ずるっとソファから転げ落ちて見事妙な体勢で起きる。

ベットで寝ようと思うのだが。
どうにも、机でパソコン広げて作業してたらそのまま寝てしまう。
結果こんな有様がもう数日。

ついに剛の幻まで来た。
幻だけど。

服もジャージのまま、飯も食わない。
おまけにソファで寝るし。
脱いだ服も散らかってる。

これが自宅なら、剛は何も言わず片付けるのだ。俺だって剛ほどじゃないが割と綺麗好きなんだが。
いつも、せっせと掃除して動いて剛とはある意味逆だったり。

ソファで目を覚ます生活なんて。
こんな生活剛にバレたら発狂される。
間違いなく怒られる。

昔から何故かそこだけは譲らなかった。
そういえば昔付き合いたての頃。
遠慮してベットを剛に明け渡してソファで寝た時もめっちゃ、拗ねられた。


ーーーー


「ねぇ、光ちゃん、てば、」

身体を激しく揺すられて意識が覚醒する。
ねえって!
かなり強めの言葉と動きで揺り動かされてハッとする。目を開けたらムッとした剛が。

ベット、ベット行こ、って。
ベットで寝よう。って。

「ん〜……、いい…、後で行くから…、」

お前先に寝てて、また体勢を戻して薄く目を開ける。剛を見たら不服そうな顔。

「んもお、昨日も…、やったやん。昨日もソファで寝た、」

疲れが取れないんだから、ベットで寝てよ。
剛がぷりぷりする。

「ん〜……、後で、いくわ、」
「あとって、なんやねん、」

ここ最近ソファやないか。
剛が片足を踏み鳴らしてムッとしている。

「まぁ、……あとでな?」
「ん、いや、今、」
「あかんて、」

しまいにはぼくと寝たくないの?とかなんとか。ぶちぶちと小さな声で泣きそうなトーン。また薄く目を開けたらガーゼブランケットを羽織ったままじっと見てる。恐らく中はきっと裸だ。

このままベットに戻ったらヤってしまう。

確実に襲って、結局朝までとか。
2ラウンドじゃ済まない。ベットで剛と眠るたびここ最近は特に、ソッチが大変すぎてどうにもならん。

毎日疲れ果てるまでえっちしちゃう。
流石にそれが申し訳無いのだ。

「むぅ、光ちゃんっ、」
「いや…、ベットだとさ、休まんねぇから、」

お前が。
寝かせてやれねえから。
この言葉は言わずに、背凭れ側に身体を預ける。

「んむ…っ、」

剛の唸る声のあと、とてとてと足音がメゾネットを登る。チラッと視線を剛の背中へ向ける。少し寂しそうな姿。

毎晩、一緒にベット入る度に理性が効かない。何とか落ち着かせようとしても、抱きたくてしょうがなくなるのだ。そうすると、剛の身体への負担がハンパない。
朝は朝で眠いし。剛の打ち合わせにも影響は出てくるし。
一念発起して、離れて眠ることにしたのだ。
でももう数日。
剛が、俺を起こしに毎日ソファの元へやって来る。その度に、あの理由この理由を付けている。そろそろ限界な気がした。

天井を仰いでぼんやり意識が沈む。
目を閉じてフッと暗くなる意識。


ハッと目を覚ましたら真っ暗な室内でぼんやりと天井を見上げる。
身体が痛い。起き上がって床に足をつけたもぞっとした塊に思わずギョッとした。
息を呑んだら、ソファの下で毛布に包まった剛がすぴすぴしているではないか。

「な、…ちょ、つよし、…っ、」

慌てて身体を揺する。

「ん、…っぅん、…っ、」
「ちょ、ちょ、と…な、ん…え?、な、んで、…っ、」

お前、ここに。

もぞもぞ動いたあとは鼻から大きく息を吐いて身体を反転。
いやいや、起きろって。
ここで寝るな。

「ベット、ベット行けって、」
「ん、やぁ…っ、」
「なんでよ、」

少し目を開けて俺を見たあと、ムッとした顔してまた毛布の中にうずくまる。

「いやいやいや、…あかんて…、」
「…光一も、ソファで寝てるもん、」

いやいや、俺はソファやし。
お前床やん。

取り敢えず抱き上げてソファの上に招く。

「身体、痛くするから、」
「ソファも変わらんし、」
「いや、…ベット、…ベット行こか?」

覗き込んだら、口元をぷすぷすさせながらゆっくり頷く。そのまま剛を抱き上げて寝室へ。
ベットに下ろしたら、寝室を出ようとする俺に光ちゃん、と呼びかけてくる。
暗がりで大きな瞳。
じっと見られて振り向いたらまたムッとした顔。

「……そんなに、ぼくと寝たくないの?」

むぅっとした拗ねた顔は明かりがなくても分かる。目を凝らして黙っていたら、剛がため息を吐いた。

「ん、ちょっと水飲んでくる、……だけ、」

だから…。語尾が小さくなる。

「……戻ってくる…?」

また、ソファ?
ボソッと呟く声に思わず首を振って答える。

メゾネットを降りながら思わずため息。
ヤっちゃうよな…。
きっとまた、シてしまう。あいつの隣に戻ったら爆発しちゃうからな。

台所でグラスを揺らしていたら静かな室内に響く、剛の俺を呼ぶ声。

はいはい。

返事をしながらまたメゾネットを登る。我慢できるかな…。思わず股間を握る。


ーーーー


結局あの後もソファで寝るって生活を続けてたらマジ泣きされたし。なんで、こんな大きなベットで毎日1人で寝なあかんのっ!って。お前帰ってきてるのになんで、1人なん!って本気で地団駄踏んで怒り狂われた。

ほんまに、あいつ俺がソファで寝るの嫌がるんだよな。
昔から。ずっと今も変わらん。

まぁ…。
あの頃から比べたらだいぶ落ち着いた。
俺の性欲も。大分、コントロール出来る。
隣で寝ていても、寝込みを襲うことはしなくなった。
勃つは勃つけど、朝剛が起きるまでは待てるようになった。比較的剛の好きな朝えっちにも今はだいぶ慣れてきた。

夜の方が俺はしっくり来て好きだけれど。

剛は朝の方が好きらしいし。
どうしようもない時は巣篭もりに付き合ってくれるし、まぁ良しとしよう。

思い出してパソコンのフォルダを開く。
幾つかある剛の、シークレット写真。
携帯では決して開いて見ることができない少々過激な画像。

ぼんやり眺めてまた目を閉じる。

ーーーfinーーー
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