短編
□ライバル
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私には、モデルの友達がいる。
眼鏡で地味な私には不釣り合いなほど、美人だった。
ポアロで話があると急に呼び出された。
「それで今日はどうしたの?」
私は聞いた。
「今日は宣戦布告に来たの。
あそこにいる、店員の透さんに私今から告白する」
「えっ?!」
「あなたも、透さんのこと好きでしょ。
貴女に勝負を挑むわ。
最近、透さんと仲良いのは知ってるんだから。
2人同時に告白して、選ばれた方が勝ちよ。
言っておくけど、貴女には負ける気がしないわ」
彼女は、最後の一文を鼻で笑いながら言った。
「私は遠慮しておくよ…」
私は容姿に自信がなかった。
「というか、そんな見た目しといて、どんな分際で透さんに好意を抱いたわけ?
鏡見たほうがいいわよ」
私は、時々どうして彼女と友達なんだろうと思うことがある。
意地悪なことを言われても、こんな私と一緒にいてくれてありがたいと思ってしまう。
「どうやら、僕に用があるみたいですね」
そこに突然、安室さんがやってきた。
「透さん♡」
彼女は安室さんが来た途端、急にしおらしくなった。
「2人にクイズがあります。」
「えー、なになに?やりたいー」
私の沈んだ気分とは裏腹に、友達はテンションが高くなっていた。
「僕は、2人のどちらかに告白することがあります。
あなた達どちらに、告白しようとしてると思いますか?」
「え?マジ?!」
突然のことに彼女は、思わず悲鳴をあげそうなほど、嬉しそうな声をあげた。
自分が告白されると、完全に思っている。
私も、そう思う。
友達と安室さんならお似合いだ。
好きな人が目の前で、友達に告白する。
私は下向いて俯いた。
「それはあなたです」
安室さんは、友達の方を向いて満面の笑みを浮かべた。
「キャー!!!」
彼女の叫び声が店内に響く。
「やっぱり、そうだと思ってたのよね。
私のことみんな可愛いって言ってくれるの♡
嬉しい〜!透さん、やっぱり私の方がすきだよね♪」
「僕は貴女のことを…………」
「虫酸が走るくらい、死ぬほど大嫌いですよ」
「は?」
これには私も流石にびっくりして、顔をあげた。
「告白と言っても、内容は色々です。
僕は『あなたのことを好き』だと告白するとは、一度も言っていません。
あなたに改めて、伝えたいんです。
大嫌いだと」
「は?!なんでよ!
私モデルなのよ?!
最近売れてきてんのよ?!
どんな身分で私のこと嫌いとか言えんのよ!」
「僕はあなたのそういう所が、生理的に受け付けません。
高圧的な態度で人を見下す姿が、醜くて見ていられません。
自分が可愛いなんて勘違いはほどほどにしてください。
それに僕は、彼女のことが好きです」
安室さんは、私を見ながら言った。
「えっ、私?」
「趣味悪!」
「友達だと言いながら彼女の容姿をけなし、奴隷のようにいつも引き連れている。
そんなあなたを私が好きになるはずがありません。
今すぐお引き取りください」
友達はヒールを履いた足で、テーブルを蹴り飛ばし、ヒステリーを起こしながら店を出ていった。
「そのブスとよろしくやってな!
この色黒キモ男!」
店内に客がほとんどいない時間で良かった。
平日の朝だったので、客は隅っこのテーブルのおじいちゃんだけだった。
「大丈夫?」
安室さんは、私の向かい側の席に座った。
「うん…なんか、ごめんね」
「全然。あの子とは縁を切った方がいいよ」
「私を助けるために、私のこと好きとか言ってくれてありがとう」
安室さんは呆れたようにため息をついた。
「あれは本心だよ」
「え…なんで…私なんかを…?
こんな…ブスな私と…?」
「あの子に、不細工だと言われ続けて、自分でもそう思い込んでるんじゃないのかな。
ああいう子は、他人を貶して自分の心のバランスを取ってるだけだから気にしなくていいよ。
それに…」
安室さんは、私のかけている眼鏡を取った。
「こんなに可愛いのに。」
私は顔が熱くなった。
「照れてる、可愛いね」
「か、かわいくないよっ。
眼鏡返してよっ!」
視界がぼんやりして周りがよく見えない。
私は慌てて、安室さんの方へ身を乗り出した。
その時、唇に柔らかいものが当たる感触がした。
と、同時にリップ音が聞こえた。
私は声にならない声をあげた。
「眼鏡はお返しします。
その可愛い顔を他の誰にも見せたくないからね」
「店内に人がいるのに!」
「大丈夫。あのおじいちゃんは寝てるし、今店員も僕だけだからね」
安室さんは、私の頭を撫でながら言った。
「君が他の誰かに容姿を貶されたら、その回数だけ僕が可愛いって言うから。
もう自分のこと不細工だなんて言わないで」
「…………告白はどちらかにだけなんじゃなかったの」私は拗ねた。
「内容は違うけど、2人共に告白してしまったね」
あはは、と安室さんは楽しそうに笑った。
「ありがとう」
私はとびきりの笑顔で言った。