鈍色の空を変える方法

□お届け物
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*左馬一



見慣れたドアをガチャリと開き、踏み入れる。
普段よりも少し薄暗い気がしたのは気のせいではない。
うっすらとリビングの方から漏れている光がいつも以上に少ないからだ。
壁を伝いながら暗闇の廊下を歩き、光の漏れている場所まで行くと数週間聞けていなかった低い声が響いた。

「・・・誰だ?」

「あんた何してんだよ・・」

「あ"?んだよ、テメェかよ」

「ったく、ちゃんと飯食ってんのか?」

「・・・関係ねぇだろ・・」

部屋に入った瞬間から思っていたが、足元に転がっている空き缶や空き瓶を見て相当な量のアルコールを目の前の男は摂取している事を確信する。
呆れつつ、小さな紙袋を机に置き小言を言うと面倒くさそうに顔を背けられてしまった。
顔色もこの暗さでは分かりづらいので、仕方なく部屋の明かりをしっかりと点ける。
すると不機嫌そうに舌打ちをされた。

「理鶯さんと此処にくる前にあんたんとこの事務所に居た奴等から聞いたけど、あんたが抱えてた一件片付いたんだろ?」

「一応な」

「・・・なぁ、こっち見ろよ」

「うっせぇガキだな」

「・・ちゃんと、寝れてねぇのか・・・?」

此処に来るまでに得た情報を軽く話すが、話をする気がないのか短く言葉だけ返す左馬刻の目の前の机に睡眠導入剤が置いてある事に気付き、質問を投げ掛ける。
すると、勢い良く振り向き胸ぐらを掴まれた。

「っ・・・うるせぇな!テメェには関係ねぇだろ!!」

「寝れてねぇのかよ。んなにその一件が忙しかったのか?」

「だからテメェには関係ねぇっつってんだろ!」

「あるに決まってんだろ!!あんたは大事な人なんだ!」

睨み付けてくる赤い瞳に怯みかけるが、負けじと平然と言葉を返すが続けられた言葉につい声を荒げてしまった。
すると睨んでいたはずの赤が一瞬揺らいぎ、掴んでいた手から力が抜け代わりに肩口に頭を乗せられる。

「っ・・・寝れねぇんだよ・・」

「ぇ?」

「毎回、テメェが居なくなる夢をみんだ・・・」

「俺が?なに言って・・」

「今回の一件ははっきり言って俺様の組は関係なかったんだ・・別の組に裏切った奴がいて、ソイツが本当は敵対してる所の奴だった・・・」

「?でもよ、そんなデカい騒ぎは聞いてねぇから・・・話し合いとかで片が付いたのか?」

「そんな甘ったる業界な訳ねぇだろ・・・それなりにお互いデカい組織な訳でよ・・上の連中は面倒事はこっちで何とかしろって俺様の組に白羽の矢が立っちまったんだよ」

ゆっくりと話を始めた左馬刻の背中に腕を回し、話に耳を傾けていたが、少しずついつもの調子を戻したのか身体を離し、大きめのソファーにドサリと腰を下ろした。

「はぁ?んだよそれ!」

「上の指示は絶対だ。テメェもそれくらいわかんだろ。下手に騒ぎを起こすのは互いに得策じゃねぇからな。ただ、この一件で互いに少しやり合いになった。銃兎から連絡はねぇから俺様達が絡んでるとはサツには気づかれてねぇな」

「そんで、どう纏まったんだよ?」

「この一件を終わらせるために向こうはこっちに送り込んできた奴を切り捨てた。その後はソイツがどうなったかは知らねぇが、それまでのやり合いとかの揉み消しが思ってた以上にサツが入りかけたりして手間取ってよ。そんで今日までかかったって訳だ」

「なるほどな・・・で?何で俺が居なくなる夢見始めたんだ?」

説明途中から煙草を手に取り吸い始めた左馬刻の隣に座り、一通りの説明を受けた。
だが、左馬刻が眠れない理由はまったくと言って良いほど説明の中から見つけ出せなかった。
大人しく本人に聞くことにし、顔を覗き込むように見つめる。
すると煙草の火を灰皿で消し、また顔を背けられてしまった。

「・・・と似てた・・」

「は?」

「だから、似てたんだよ!昔の関係に!」

「ぇ・・・?」

「裏切った奴は、昔の俺様と同じ立場の奴に気に入られてたらしい。その話聞いてから見るようになった・・・」

「・・連絡、くれればすぐ来てやったのに。俺はもうあんたの傍から居なくなんねぇから安心しろよ?」

「んだよそれ・・・」

呟かれた声が上手く聞き取れず、聞き返すと睨み付けながら告げられた言葉に驚くが、そのまま話を続けた左馬刻を立ち膝になりながら抱きしめる。
そのままゆっくりといつも左馬刻にされる様に頭を撫でると眠そうに暴言を吐かれた。

「なぁ、今日泊まってもいいか?」

「・・好きにしろ・・・」

「サンキュ。明日何も予定ないから。ゆっくりできっから」

「あぁ・・」

抱きしめたまま左馬刻を上に乗せるようにソファーに寝転ぶと更に眠そうに目が細められる。
そのままゆっくりと頭を撫でると返事をしながら瞼が落ち、寝息が聞こえ始めた。
寝息を聞いていると段々こちらも眠くなってくる。
ふと机に置いた紙袋が目に入った。

「明日食べてもらえばいいか・・・」

気持ち良さそうに寝ている左馬刻の寝顔を見て小さく笑い、ゆっくりと訪れた眠気に身を任せ目を閉じた。
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