鈍色の空を変える方法
□言葉
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*言葉の中に part1*
・TDD時代
「左馬刻さん!」
「あ?」
ヨコハマの海が見たいと騒いだガキを連れて事務所への帰途を歩く。
後方からトコトコと犬のように着いてきているガキを置いてく勢いで歩いているはずなのに嬉しそうに声をかけられた。
返事をしつつ、振り返ってみると少し離れた場所からまた海を眺めているようだ。
「ねぇ、左馬刻さん!」
「だから、なんだっつってんだろ!」
「夕日!綺麗ですね!」
「はぁ?」
「へへ、きっと今日も星が綺麗ですね!」
本題に入らない事にイラつきながら返事を返すとはしゃぎながら言葉を続けられる。
訳がわからずに困惑するとそのまま少し悲しそうに笑顔を作り、顔を背けられた。
何故かその行動に胸が痛んだ。
そしてまた何時もと変わらぬ、人懐っこい笑顔を向けられた瞬間になんとなく、このガキが伝えようとしていた意味を理解する。
「・・・チッ・・解りづれーことしてんじゃねーよ・・・」
「?左馬刻さん?」
呟いた声が届かなかったため、不思議そうにこちらに駆け寄ってきた。
それを無視して踵を返し、また歩き始める。
すると大人しく後ろをトコトコとまたついてき始めた。
そんなガキに振り返りもせずに声をかける。
「・・・おい」
「?なんですか?」
「・・死んでもいい・・・」
「え?」
「死んでもいい。そう言ったらどうする?」
「?!それって!」
「・・・ガキが回りくどい言い方してんじゃねぇよ。置いてくぞ」
「すみません!待ってください!」
呟いた言葉に不思議そうに後ろから覗き込むように上目遣いでこちらを見てこられ、立ち止まり悪態をつきながら顔を背ける。
その言葉に驚いたようで目を丸くし固まったようだ。
そんなガキを置いてなにもなかったかのように歩き始める。
(ったく・・好きでもねぇヤツとこんな所歩くわけねぇだろうが・・・)
*夕日が綺麗ですね*
*あなたの気持ちが知りたいです*
*星が綺麗ですね*
*あなたは私の気持ちに気づかないでしょうね*
*死んでもいいわ*
*愛してる*