Balla cane !
□HAPPY BIRTHDAY
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しゅるりと音がして、後ろ手に縛られていた腕の絹の縄が解かれたのだと、ぼんやりとした意識の中で刀磨は感じ取っていた。
きつく縛られていた腕の感覚は当の昔に無く、それは、泥に身を浸しているようにも感じる全身にも言える事だったのだが。
身支度を既に終えていたのだろう相手が紫煙を吐き出しながらそんな自分のナリを見て心地よさ気に笑うのが耳に入ってもピクリとも動けない。
「ごっそォさあん…。」
満足そうに、それこそ鼻歌でも唄いそうな空気で笑いながら男が告げる。
「半野良ちゃん…?これでお前は…俺様の犬だぁ。」
カサリと耳元で音がして、綺麗に整えられた指が枕元に万券数枚を置くのが見えた。
「動けねェんだろォ…?今日は泊まってぇ、ソレで身支度して出なァ?俺様は行くからよぉ。」
クスクスと笑いながら何処までも優雅な足取りでヒールの音を響かせて男が部屋を去っていく。
こんな事は大した事ではない。
ちょっと喧嘩に負けてボコられたのと同じ事だ。
それと何が違う?
何も違う事など無いはずなのに、惨めさと無力を悔やむ熱量で脳が焼ききれてしまったらしい。
1人残された部屋で刀磨は笑っていた。
己自身を、無力さを嘲笑い、ひとしきり笑って、刀磨の意識は暗い闇に堕ちていった。