ファンファーレ!
□EARTH EYES
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大人は思い通りに自分が動かないとすぐにヒステリックになる。
それはナナにとって真理であり、絶対的な事実だった。
自分は父も母も知らない。死んだと聞かされていた。
物心ついたときには、自分の世話をしてくれていたのはモデルのマネージャーをしている女性だった。
美しい人たちしか回りにいない環境で、美しいものだけをただ大人しく見ている。
そうしていないと大人はまた訳のわからない事で癇癪を起こすから。
8歳の誕生日に、やたらと嬉しそうな顔で世話をしてくれていた女性は告げてきた。誕生日プレゼントだと。
「あんたは今度、パパの元で暮らせるのよ。」
その時初めて死んだと聞かされていた父が日本人でまだ生きていたことを知った。
日本に渡って、絵本や写真集で見たような屋敷の一角で、ナナは父と対面し、同時に失望した。
醜かったからだ。
日本語には慣れていた。周囲で使う人が多かったのが一番の要因だったろう。
「ともかく、この子の目と顔立ちです。」
付き添いできた女性は父と何か話している。
「クリスティーナに似てきて、しかも、アース·アイまで遺伝して、私どもではもう隠し通すことが困難です。私も結婚が決まって子のこの面倒はこれ以上見られませんし、クリスティーナはこれからと言う所まで来ています。今更未婚で子供がいるなどということは公には出来ません。クリスティーナはこの子には興味がなく、名無しという意味でナナと名づけてあります。」
ふむ、と父は呻っている様だった。
「私にはすでに本妻の間に2人子がいる・・・。両方とも男でね。これ以上揉め事は避けて通りたい。養子という形で、世間には女ということでなら引き受けも出来るが・・・・」
「どんな形でもかまいません!」
女性は必死の呈で言い募る。
自分の未来がどんどん決められていく様にも8
歳のナナは大人しくじっとしていた。
それが一番だと知っていた。
やっと父とまともに向き合ったのは、女性が何度も頭を下げて足早に帰ってしまってからだった。
「ナナ。今日から私が父親だ。」
泰然とした態度で父と名乗った醜い男は相好を崩した。
「嗚呼・・・。よく似ている・・・。お前は綺麗だね、ナナ。今日からお前はあの離れで暮らす。外へ出ることは許可できないが、寂しくないよう出来るだけ私が訪ねていくからね。しかし、名無しのナナとはひどい名だ。これから、お前は七海を名乗りなさい。緒方七海だ。
法的な手続きも任せなさい。」
余計なお世話だと思った。
名なども気にはしていないというのに。
だが口に出せばこの男もヒステリックにわめき散らすに違いない。
「女の子として過ごさなければならない事に不便もあるだろうが、私としても辛い選択なんだよ・・・。分かってくれるね・・・・?」
だから、いつものように微笑を浮かべてこう答えた。
「はい。お父様。」