■ みゆめい ■

□好きになる魔法をかけられたオレ
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何故か後輩のキャッチャーに敵意むき出しされている。
まぁ、何となーく理由は薄ら解ってはいるけど・・・・。




そうは思っていても体に突き刺さるような鋭い視線を毎日受け続けるのは
正直、面倒くさい。








「なー、奥村」




練習後、寮に帰ろうとしている奥村の背中に声を掛ける。
クルッと振り返った彼は超不機嫌そうで思わず笑ってしまう。



(いやいや、そっちは練習中ずっとオレに敵意むき出しだったじゃねーかよ)






「何っすか??」
「どーしてそんなにオレに敵意むき出しなワケ??」
「別に」





せっかくこっちが何とか友好関係を築こうとしているのに相変わらず
興味ありませんという表情と声で対応する奥村だけど、オーラは敵意むき出し。





(本当にわかりやすいというか・・・何というか・・・)






「ただ、負けたくないだけです」
「ふーん・・・・・」
「ほら、その余裕ぶっているのを見ると死ぬ程、ムカつくんです」
「別に余裕ぶってねーよ」
「キャッチャーは貴方だけじゃないんで」





つまりはウチの投手陣がオレに受けて欲しいというのが気に入らないか。
まぁ、その気持ちはわからねーでもない。
毎日毎日、努力を積み重ねて皆が自分のポジションを獲ろうと必死だ。
しかし、絶対的存在が居ればどれだけ頑張っても手に入れられない。





「だったら、相手に信頼して貰えば良い話だろ?」






オレの放った言葉に奥村はキッと鋭い視線を向けた。





「信頼を築く隙間もないのに??」
「・・・・・・・・」





そういう事ね・・・・とオレは深いため息をついた。
でも、それって不可抗力ってヤツじゃねーのと思ってしまう。
オレは頬をポリポリ掻く。





「まぁ、アイツはとはお前よりはバッテリー歴長いからな」
「でも、あと一年で貴方が居なくなる。今の内にバッテリー間で信頼感を作るのも
 チームにとっても良いと思わないんですか?」
「確かにそーだけど」







それをオレに言われても困る。
受けて欲しいと懇願してくるのは彼奴らなのだから。





「チームの事を考えているクセに結局は自分のポジション獲りに必死なんですよね?
 それでもキャプテンなんですか?」







もっともな意見にオレは苦笑いする。





「取り敢えず、降谷や沢村にお前と組むよう言うから」
「・・・・・・」





フォローの為にそう言っても更に不機嫌になっているのはきっと、エージ直々に
バッテリー組んでくれと言われず、オレが言う事で渋々されるのが嫌だからだろう。




(ったく・・・どうしてオレの周りには面倒なヤツが多いんだよ・・・)





ただでさえ、エース陣に苦労しているのにと項垂れるオレをジッと見つめる奥村。
深いため息をついてオレは奥村の肩をポンポンと叩く。




「オレはお前のキャッチング評価してんだから」
「・・・・!!」




まさかと言わんばかりの奥村の表情にニカッと笑う。





「ちゃんと投手に声を掛けられて、相手の要求をちゃんと理解している。
 そして何よりも投手の為に力になろうと思っている。それはデカいからな」





ウィンクしたオレをポカンとしている奥村に「じゃあ、後でな」と背を向ける。




奥村の言葉にオレも気付かされたことがあった。
いつまでもオレがこのチームが居るわけじゃないという事。
ちゃんと後輩を育てなければならないと言う事を。





「ったく・・・まだまだだなー・・・オレも」





そう呟いてオレは寮へと軽い足取りで歩いて行ったのだった。









この夜も投げ込みの為にオレは室内練習場に来ていた。
目の前では奥村を相手に沢村が投げ込んでいる。
そして、降谷の前には由井がいた。





「おいおい・・・降谷のヤツ、スッゲー不機嫌じゃん」





様子を見に来た倉持がヒャハハと笑っている。
練習前にオレが由井相手に投げろと言った時、降谷はまるで殺すかのような
視線でオレを睨んだ。





「どーしてですか?オレは御幸先輩以外投げたくない」





超ワガママエース降臨にオレは苦笑いする。
キャプテンのオレが言うんだから黙って従ってくれたら楽なのに・・・。





「まー、そう言うな。たまには、な??」
「・・・・・・・・」





やっぱこんな言葉じゃ納得しねーわな・・・とオレは天を仰いだ。





「あのさ、オレはお前が卒部するまで居るわけじゃねーんだよ。
 オレが居なくなってお前、どーすんの?」
「!!!!!」






オレに言われて初めてその事に気付いたのか降谷は目を見開いた。
余りの衝撃だったのかそのまま固まってしまう。





「だから、他の捕手とも信頼関係を築かなきゃだろ?」





そう言って降谷の肩をポンと叩いた。
オレの言葉に納得をしたは良いが、やっぱり思い通りに投げれないからか
降谷の不機嫌さは増していく。





「良いのかよ、あんな不機嫌にさせて」





倉持が心配そうに聞いてくる。
オレもさすがに不安になるがココでオレが出たら元の木阿弥だ。
まるで崖から子ライオンを突き落とす親ライオン状態だな。
ある程度、投げ込んで休憩を入れる。
それぞれにドリンクとタオルを渡し、直すべき点を指摘する。





「にしても、お前って本当にスゴいな」
「ん??何が??」
「こんなややこしくってワガママなヤツらの相手ってさ」






倉持の言葉に沢村が「うるせーヤンキーっ!!」とわめき出す。
その他のヤツらもジトーッと倉持を睨む。
そんな視線には全く臆する事無く倉持は続けた。





「スッゲー扱い慣れている感じがハンパねーよな?」
「まぁな」






そう言われてオレはある人物を思い浮かべる。





(アイツのワガママぶりはコイツらの比じゃ無いからな)






「コイツらのワガママなんて可愛いモンだぜ?」
「はぁ?マジで??」






驚く倉持にオレはハハハ・・・と笑うとワガママと言われた連中はますます不機嫌になる。
その様子に後でフォロー面倒だなーと思っていると














「へぇー、これが青道の室内練習場なんだ??」




まさかの声に皆がそちらを見る。
そこには信じられない人物がいた。




「な、なっ!!!稲実のシロアタマっ!!!!!」





勢いよく立ち上がった沢村は鳴を指さし大声を出した。
その事に鳴が「シロアタマじゃなくてっ成宮鳴だよ!!キング様!!!」と応戦する。




(おいおい・・・敵陣に何しに来てんだよ・・・・)





オレは一気に頭が痛くなり、隣にいる倉持は余りの事に口が開いたままだった。





「おい、鳴・・・何しに来た??」
「あ、一也!!!オレの球受けてよっ!!!」





そう言ってルンルンと跳ねながらこちらに来る鳴に驚愕する。





「お前っ、ライバル校の捕手に投げるリスクわかってんのか!!」
「だって、樹ったら投げ込みお願いしたら体休めるのも大事だって相手してくれないんだもん!!」
「いやいや、それはお前を思って・・・・」
「オレは投げたいの!!!ね、良いじゃん!!一也なら受けれるだろ?オレの球」
「そういう問題じゃねーよ!!」






(投げたいからって敵陣に乗り込んでくるってどういう神経してんだよ・・・・)






そういう所が鳴らしいと言えばそれまでだが。





「ストレートだけ投げるから!!ね??」
「あのなー・・・・・」
「投げさせてくれるまで帰らない!!!!」






全く引き下がることの無い鳴にオレはガックリと項垂れる。
その様子を皆が口をあんぐり開けて見つめていた。
どうして稲実のエースがウチの捕手に相手してくれと言いに来るのか理解が出来ない。
しかも、いつも飄々としているオレからは想像出来ない位、振り回されているのが
嘘みたいでマジマジと見ていた。





「鳴・・・・・」
「相手、してくれるよね?一也」





ニッコリと笑う鳴にオレは大きなため息をついた。
コイツがこういう時は絶対に引かない。
例え、稲実のヤツらがコイツを迎えに来てくれたとしてもだ。
オレが渋々と防具に手を伸ばすのを見て鳴はニパッと笑った。









そして、準備が出来たオレが構える。
すると、鳴のオーラが一気に増したのがわかった。
その場にいる者全員がその空気に飲まれる。
そうして流れる動きから投げられた投球はストレートではなく変化球だった。
しかも、信じられない位の抉るような球に驚く。
バシッという派手な音と共にオレのミットに収まったボールに鳴はニヤリとした。




(おいおい・・・・マジかよ、こんな球・・・・・)





久々に受けた鳴の球の威力に月日の流れを感じ、そして、とんでもないエースになったと体が震えた。





「うーん・・・まだ、エンジン掛かんないなやっぱ」





投げた鳴が放った言葉に全員が言葉を失う。
どう見ても凄まじい球なのにこれで本調子じゃ無いってどういう事なのだと。
オレは驚きを隠しきれないまま鳴にボールを投げる。
それを受け取った鳴が「一也」と名前を口にした。
言葉を発さずに目線だけ向ける。





「お前をサイコーの気分にしてやるよ」
「!!!!!」





そう言って笑った鳴の表情は妖艶でゾクッとする程、綺麗だった。
体から溢れ出す自信、そしてオレを心底信頼しているという感情が伝わってくる。




(あーあ・・・・これだからオレは・・・・・)





「それは楽しみだな、鳴」





オレは震える心を抑えることも出来ないままミットを構えた。












もっと受けたいと思わせる投球だが、流石に投げ込み過ぎだと感じたオレは
鳴に止めるよう声を掛けた。




「あーあ・・・もう、終わり・・・・」




残念そうに頬を膨らませた鳴は先程までの王者のオーラはない。
いつものお子ちゃま鳴の表情に口元が緩む。





「やっぱ一也相手だと永遠に投げられるのに・・・」





素直にそう言われて嬉しくないハズが無い。
しかも、相手は関東一のエース。
オレ達を見ていた連中は衝撃の強さに固まったままだった。
そりゃそうだ、目の前でとんでもない球を見続けたんだから。
絶対的なエースの貫禄に当てられた状態だ。





「後、ヨロシクな」





と、言い残しオレは鳴を送るために外に出た。

















「オレの連中にあんま刺激与えてくれないでくれるか?」




そう言ったオレに鳴は「それってキャプテンとして?」と拗ねた口調で返した。




「お前ってスゲーよな、やっぱ。ボールを投げるだけで周りの闘争心をそぎ取るんだから」





鳴の投球を見ていた連中はきっと敗北感を味わったに違いない。
しかも、それが全力投球じゃ無いっていうんだから尚更だ。




「選手を再起不能にされちゃあ困るんだよ、オレだって」
「ふーん・・・・あんなので再起不能になる位だったら大した事ないね」





素っ気なくそう言った鳴に苦笑いする。
コイツがこうしてココに来たのはきっと彼奴らをギャフンと言わせたかったんだろう。
それは選手としてではなくて・・・・・。






「オレのメッセージ無視するバツだよ、一也」




ムスッとしながらそう言った鳴は口を尖らせている。




(やっぱそういう事かよ・・・・・ったく・・・・)





だからって敵陣に乗り込んで暴れるってエースとして失格だぞと言いたいが敢えてグッと堪える。





「悪かったって」
「全然、悪いと思ってないだろ!!!その表情!!その声!!」





ギャンギャン言う鳴にオレは肩を竦めると、細い腰に手を伸ばして引き寄せた。
一気に近くなる顔に鳴が真っ赤になる。





「なっ、・・・・・!!」
「でもさ、あんまああいうメッセージは止めてくれない??」




【一也、好き】【会いたい】【やっぱ一也相手に投げたい】・・・etc
鳴は本当に素直でストレートに想いを伝える。
それを目の当たりにして普通に居られる程、オレだって大人じゃ無い。
会いたくなって仕方なくなるのが苦しくなってオレは鳴のメッセージを無視していた。






「・・・・も、しかして・・・・」
「ん???」
「他に好きなヤツ出来たの??」






鳴にしては珍しく声が震えている。
眉はハの字になってまるで捨てられた子犬の様だ。




(いや、鳴だから子猫か・・・・???)





ワガママで気まぐれな・・・・・愛しい恋人。





「お前は本気でそう思っている??」





ワザとイタズラっぽく笑ってそう聞くと口ごもる鳴。
信じたくない、不安だという表情になり俯いたその様子にやり過ぎたかと後悔する。
オレはそっと顔を近づけるとチュッと音を立ててキスをした。





「オレはお前に出会った時から心掴まれているから」
「一也・・・・・・」
「お前以外を見られない魔法掛けたクセに・・・責任とれよ?鳴」






再び、キスをしたオレの首に腕を巻き付けて「もっと」と強請る鳴。




(クソ可愛すぎて、やべーよな・・・・マジで)




オレしか知らない鳴の一面を目の当たりにしてますます心が縛られるのを感じ
腕の中の温もりを愛おしく感じながら暫くの間、キスに没頭した。






■END■


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